水天宮御造替
竹中工務店
第45回東京建築賞|東京都建築士事務所協会会長賞
建築主:
宗教法人水天宮
設計:
株式会社竹中工務店東京一級建築士事務所
施工:
株式会社竹中工務店
所在地:
東京都中央区日本橋蛎殻町2-4-1
主要用途:
神社
構造:
鉄筋コンクリート造(免震構造)
階数:
地上6階/地下1階
敷地面積:
2,432.04㎡
建築面積:
2,010.28㎡
延床面積:
5,000.00㎡
工事期間:
2014年1月〜2016年2月
撮影:
*光齋 昇馬、**古川泰造
設計趣旨:
 江戸鎮座200年の節目に境内を一新した日本橋「水天宮」の御造替(建替工事)である。
 芝赤羽根橋の有馬家上屋敷から蛎殻町の下屋敷へ、時代の移ろいとともに変化した境内の立地や社殿のかたち。「水天宮」固有の歴史を参照し、時代の要請に応える"現代に生きる伝統"のかたちを追求し導き出した伝統様式の社殿と、武家屋敷の長屋門や蔵から着想した現代的な形態の社務所・参集殿とを複合させて、都市空間の中に際立つ神域を創り出すことを目指した。
 限られた境内の中に組み合わされた3つのヴォリュームの間を縦横に縫う立体的な参道は、木造の木割寸法に則った超高強度コンクリート製の列柱に誘われ、緩やかなスロープで拝殿に臨む。
 安産祈願に訪れるすべての参拝者の安心安全を最優先するという建築主の強い想いが、建物、参道、外周歩廊に至る境内全域の免震化を実現させ、現代の神社のあり方を指向した建築は、地域に新たな歴史を刻むランドマークとなった。(水野 吉樹、井上 博明)
水野 吉樹(みずの・よしき)
1960年 愛知県生まれ/1985年 日本大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了後、竹中工務店入社/現在、竹中工務店東京本店次長、日本大学理工学部非常勤講師
井上 博明(いのうえ・ひろあき)
1966年 東京都生まれ/1990年 日本大学生産工学部建築工学科卒業/1992年 東京藝術大学大学院修士課程修了/1993年 東京藝術大学研究生修了後、竹中工務店入社/現在、竹中工務店東京本店設計部設計第5部門設計2グループ長、日本大学生産工学部非常勤講師
選考評:
 東京日本橋の神社「水天宮」のご造替(建て替え工事)である。入り口に立つとまず堂々とした門型の壁面が迎えてくれる。なんとも存在感のあるこの壁、そしてその丁寧な仕事を見れば、中に入らずして既に建物全体の完成度の高さがうかがえる。
 建物の構成は敷地全体を免震したいわば人工地盤の上に、3棟の建物を配置した形である。建物全体は鉄筋コンクリート造となっており、正面の社殿もその例外ではない。しかしながらどう見ても伝統的な木造様式である。コンクリートの躯体を包むように、宮大工の伝統の技を存分に活かして、白木の美しい木造建築に仕上げている。そこには現行法規との折り合いをつけるためにさまざまな工夫がなされている。特に目を引いたのは社殿の格天井で、木格子が天井面から微妙に浮いて設置されており、何か新鮮な印象を受けたのだが、どうやらこれは内装制限をクリアするための工夫がなせる技だったようである。
 水天宮といえば、12日に一度巡ってくる戌の日には多くの人が安産祈願に訪れる神社である。そのため入口に至るまでの長い行列に配慮した庇空間や、内部の待合、そして社殿へと続くアプローチなど、設計チーム内の女性の担当者ならではのきめ細かな配慮もうかがえる。
 建築賞においては時として敬遠されることもある宗教関連の施設であるが、われわれは純粋にその建築としての素晴らしさを評価し、ここに東京都建築士事務所協会会長賞を贈るものである。(永池 雅人)
永池 雅人(ながいけ・まさと)
東京都建築士事務所協会副会長
1957年 長野県生まれ/1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業後、梓設計入社、現在常務執行役員/品川支部