ゆいの森あらかわ
梓設計
第45回東京建築賞|東京都知事賞
建築主:
荒川区
設計:
株式会社梓設計一級建築士事務所
施工:
熊谷・坪井・東建設共同企業体
所在地:
東京都荒川区荒川2-50-1
主要用途:
図書館、文学館、子ども施設
構造:
鉄筋コンクリート造、一部プレストレストコンクリート造、地下1階柱頭免震
階数:
地上5階/地下1階
敷地面積:
4,110.88㎡
建築面積:
2,730.39㎡
延床面積:
10,943.74㎡
工事期間:
2014年11月〜2017年1月
撮影:
*近代建築社、**雁光舎(野田東徳)
設計趣旨:
 東京都荒川区の中央図書館、作家・吉村昭氏の文学館、子ども施設の複合施設である。複合のメリットを最大限に活かして相乗効果をもたらし3つの機能が融合する施設を目指した。
 各フロアは回遊性とゆとりを持たせた広場的空間を連続させ、絵本と子ども施設、小説と文学館など利用者の年齢や興味の対象を軸とした横断的なゾーニングとしている。断面的には吹き抜けを介して上下階を繋ぐことで、施設全体をゆるやかに連続させながら、下層から上層にかけて年齢や賑わいをグラデーショナルに変化させている。一般書・専門書のフロアには天井高や内装を変えてサロン・書斎的な落ち着きを持たせた静寂空間を設け、賑わいと静寂の同居する施設とした。
 キューブを積み重ねたような外観は施設のもつさまざまな機能や活動への期待感を抱かせるとともに、ボリュームの分節と植栽の集積が緑の丘に建つ街のような表情を持ち、荒川の街のスケールに溶け込ませることを意図している。(安野 芳彦)
安野 芳彦(やすの・よしひこ)
1957年 千葉県生まれ/1980年 横浜国立大学工学部建築学科卒業/1982年 横浜国立大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了/1982年~梓設計/現在、取締役副社長
選考評:
 荒川沿線の低層住宅地にひときわ目立つ外観。緑化したテラスが壇状にセットバックし、煉瓦の外壁とともに、憩いの場が想定される。内部の空間や機能とどのように関連付けられているか、期待がふくらむ。
 「読書」を推進する荒川区として、柳田邦男を委員長に読書宣言を起こし、吉村昭記念文学館と統合した図書館は「緑陰の元で本を読む」というコンセプトが全体を貫いている。内部は吹き抜けが階層を繋ぎ、書架で覆われた壁面は透けて緑陰を奥まで届ける装置でもある。そうした爽やかな空気が流れる中、さまざまな市民が自分の居場所を求めて、静かに集まっている。そこにはよく考えられた多様なメニューがあり、子供の童話コーナーもさりげなく共存する仕組みがある。静寂と緑が人の集まる上で重要な要素であることに、改めて気付かされた。
 行政のプロポーザルコンペへの志は高く、設計者の提案を元に、両者で綿密な打ち合わせを行ないつつ計画を進めたプロセスによって、設計能力は存分に活かされ、総合的(プログラム、予算、構造、環境、防災、etc.)な判断により理想を追求し、実現させた公共空間の好例である。
 行政の意欲と責任感がもたらしたこのプロジェクトは高く評価され、東京都知事賞にふさわしい。そのプロセスも含めて同様の計画時に活かされるよう希望する。(平倉 直子)
平倉 直子(ひらくら・なおこ)
建築家、平倉直子建築設計事務所主宰
1950年 東京都生まれ/日本女子大学住居学科卒業/日本女子大学、関東学院大学、東京大学、早稲田大学等の非常勤講師を歴任