西参道テラス
石川素樹建築設計事務所
第44回東京建築賞共同住宅部門奨励賞
建築主:
岡部 陽子
設計:
一級建築士事務所株式会社石川素樹建築設計事務所
施工:
株式会社渡辺富工務店
所在地:
東京都渋谷区
主要用途:
長屋、事務所
構造:
RC造、一部木造
階数:
地上3階
敷地面積:
353.11m2
建築面積:
208.25m2
延床面積:
481.06m2
工事期間:
2015年12月〜2016年11月
撮影:
西川 公朗
設計趣旨:
 大ぶりな集合住宅が建ち並ぶ敷地環境において、スケールを抑えた3階建て戸建て住宅のボリュームを4棟連ねた分棟長屋形式の集合住宅である。
 平面プランを転回させる簡素な操作で共有部からの動線や各戸間の視線のコントロールを可能とし、分棟同士を結びつける緑豊かな共有庭と、格子越しの美しい光が空間に広がりをもたらす専有庭とを設けることで、住まい手が戸建住宅と遜色ない暮らしができることを求めた。
 内部は構造フレームのルールを統一した田字型平面形状に対し、専有庭と各室と階段棟を螺旋状に回遊する立体構成とすることで、建築のボリュームを最大限に感じる設えとなっている。
 外部はスギ材の格子で住戸を包み、防犯性の向上とプライバシーの確保に加え、日射負荷を低減させることで躯体の劣化を抑制している。
 褪色するスギの表情や抑制されたプロポーションにより、刻々と変化するまちなみに溶け込みながらも有機的にあり続けることを期待している。(石川 素樹)
石川 素樹(いしかわ・もとき)
1980年 東京都生まれ/2007年 手嶋保建築事務所入所/2009年 石川素樹建築設計事務所設立/2016年 株式会社化
選考評:
 稠密なコンクリートのビルに取り囲まれた都心付近では、木造の外観は際立って優しい。高さ10mほどの建物に囲まれた中庭アプローチや外周は、建物の高さ方向の分節と、丁寧で自然な風合いのランドスケープの助けも借りて、たいへん心地よく、稠密環境に住むことへのひとつの提案となっている。人や車の通りが多い地上階は、RC造を少し沈めて1階の軒線を低く抑えオフィス・店舗としている。この上の2、3階を住宅にするという伝統的下駄履き住宅の構成を踏まえながら、住宅部分のファサードは横向きの連子といえそうな細かな木製ルーバーで全体を覆う抽象的な意匠で、アノニマスな環境との間を巧みに調停している。木材を製材前の丸太で購入して使用箇所を割り当てるといった、価格面まで行き届いた木造実現へのこだわり、細部まで行き届いたデリケートなスケール感への配慮が巧みで、木造としての魅力を都市環境の中に十分に印象付けていることが評価された。ただ、このプログラムの常として、課題となる内から外への開放性と、外から内へのプライバシーのバランスについて、ルーバーに囲まれた屋上庭園はやや暗く、ここにもう少しの工夫があればさらに魅力的になったのではと感じたのは欲張りすぎであろうか。(車戸 城二)
車戸 城二(くるまど・じょうじ)
建築家、(株)竹中工務店 常務執行役員
1956年生まれ/1979年 早稲田大学卒業/1981年 同大学院修了後、株式会社竹中工務店/1988年 カリフォルニア大学バークレー校建築学修士課程修了/1989年 コロンビア大学都市デザイン修士課程修了/2011年 株式会社竹中工務店設計部長/現在、同社常務執行役員