雪ノ下の家
石井秀樹建築設計事務所
第44回東京建築賞戸建住宅部門最優秀賞
建築主:
石井 秀樹、石井あずさ
設計:
一級建築士事務所石井秀樹建築設計事務所株式会社
施工:
恒栄ホーム株式会社
所在地:
神奈川県鎌倉市
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
S造
階数:
地上2階
敷地面積:
153.56m2
建築面積:
55.79m2
延床面積:
95.22m2
工事期間:
2014年11月〜2016年5月
撮影:
鳥村 鋼一
設計趣旨:
 敷地は鎌倉の緑の丘陵の20軒弱で構成された集落にあり、袋小路状の階段による集落は住民以外の立ち入りはなく落ち着いた環境にある。6.9m角の正方形平面で1階は閉じたプライバシーの高い空間として収納や水回りを集約した中央の箱を取り巻くように玄関、沐浴場、寝室を配置した回遊型プランとした。2階は各辺2本ずつ鉄骨柱を建て、方形屋根を浮かせただけで領域化し、この地の空気を包み込んだガランドウの空間とした。壁や柱、冷蔵庫など立ち上がりを徹底的に排除し、外部へ開放しつつ軒高を1.6mに抑えて屋根に包みこまれた抱擁感のある空間を意図した。丘陵地ゆえ周囲と段差があり軒先を下げて周囲からの視線をかわしガラス張りの日常空間を可能にしている。常々、空間を発明するのではなく発見したいと考えている。この地の空気感を自身の身体感覚で感じ、丘陵地であるこの地の要請を読み取り、ここにあるべき空間を発見できたのではないかと思っている。
石井 秀樹(いしい・ひでき)
1971年 千葉県生まれ/1995年 東京理科大学(初見研究室)卒業/1997年 東京理科大学大学院(初見研究室)修了/1997年 architect team archum設立/2001年 石井秀樹建築設計事務所設立/2012年 一般社団法人建築家住宅の会 理事
選考評:
 鎌倉の八幡宮神社のすぐ脇の丘陵地に古くから開発された20軒ほどの住宅地の一画が、この住宅の敷地である。この土地の特徴は、車輌でのアプローチがまったくなく、狭い急峻な階段を登っていくしかないことである。そのために建設は資材のすべてを人力で運び上げたという。そのために極力シンプルな構成が必要であったと思われる。
 平面は約7m×7mの正方形で、各辺の外周に2本ずつ計8本の鉄骨柱によって主構造をつくり、無柱空間を実現している。1階にエントランス、浴室、トイレ、寝室、収納スペース等を配し、外部に対し閉じた空間をつくっているのに対し、2階のリビング、ダイニングは四方をフルオープンにして周辺の濃い緑の風景を充分に取り込んでいる。特徴的なピラミッド形状の高い天井と軒高を低く抑えた室内空間は、包み込まれるような落ち着きと安心感を与えてくれる。カーテンボックスから天井上部へ導く排熱システムや、夜間電力利用の床蓄熱、蓄熱ガラスの採用などさまざまな省エネルギーのアイデアを盛り込み、建築家の自邸であるがゆえに可能になったデザインへのこだわり、思い入れが随所にみられる優れた建築作品である。(岡本 賢)
岡本 賢(おかもと・まさる)
建築家、一般社団法人日本建築美術協会会長
1939年東京都生まれ/1964年 名古屋工業大学建築学科卒業後、株式会社久米建築事務所(現・株式会社久米設計)/1999年 同代表取締役社長/2006年 社団法人東京都建築士事務所協会副会長/2014年 一般社団法人日本建築美術協会会長