新発田市庁舎
aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所
第44回東京建築賞東京都建築士事務所協会 会長賞
建築主:
新発田市
設計:
一級建築士事務所有限会社エーエーティープラスヨコミゾマコト建築設計事務所
施工:
大成・新発田・伊藤特定企業共同体
所在地:
新潟県新発田市
主要用途:
市庁舎
構造:
RC造、S造
階数:
地下1階、地上7階、塔屋1階
敷地面積:
5,739.73m2
建築面積:
2,841.31m2
延床面積:
12,995.69m2
工事期間:
2014年8月〜2016年11月
撮影:
新建築社写真部、吉原 悠博
設計趣旨:
 JR新発田駅前から続くアーケード商店街のなかほどに新庁舎が開庁した。
 庁舎機能の強化に加え中心市街地活性化も重要な課題だった。時に祭りやイベントの会場となり普段は子供たちの遊び場となる神社の境内のような場所をつくること、市役所に目的を持たない人でも気軽に過ごせる場所をつくること、近世の地割りが残るまちなみに1万平米超えのボリュームをなじませること、市民の創造的活動の舞台となる展示や集会機能を庁内の各部に仕込むことなどを目標とした。
 幅13m、高さ13m、長さ50mの「札の辻広場」は、ガスコジェネの排熱を利用した温水床暖房設備と間口幅30mのシートシャッターにより、冬期でも明るく快適な半屋外のまちなか広場となっている。
 1・4・7階のラウンジには、美術館仕様の展示壁を用意した。4階の議場は、格納式机・椅子や可動間仕切により、テラスと一体利用も可能な多機能ホールとなる。各階執務室は、将来の人口動向による業務体制の変化にも柔軟に対応する無柱空間とした。(ヨコミゾマコト)
ヨコミゾマコト
1962年 神奈川県生まれ/1984年 東京藝術大学美術学部建築科卒業/1986年 東京藝術大学美術学部建築科大学院修了後、1988〜2000 年伊東豊雄建築設計事務所勤務/2001年 aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所設立/2015年〜東京藝術大学美術学部建築科教授
選考評:
 駅より雪道を歩き、町の中心「札の辻」に移転した庁舎に至る。街並みのスケールに合わせた低層部と、晴れた空に同化するガラスのファサードが凛として爽やかである。
 迎えてくれた役所や市民の方々は、2方開放型の大空間「札の辻広場」で毎週イベントを企画運営していると目を輝かせ、ホールなどに置かれた家具は、若者たちで埋まっていた。本来の行政・議会機能に加えた市民の居場所は、プロポーザルコンペ時の提案が遂行され、活かされている。
 種々の機能を満たす空間計画の目論みは、構造・設備・環境・デザインを駆使した挑戦的な取り組みによって、新しい市庁舎としての公共建築が実現し、また周到に計画されたしきり方や備品によって、その多様な使い方も十二分に発揮されるであろう。
 敷地はL字型で決して十分な広さとはいえないが、道路に面する外壁の長さが、市民広場の独立性と存在感を示し、思い切った魅力ある提案に繋がっている。なぜか似たような庁舎計画が立ち上がる昨今、唯一無二の回答は一石を投じるものであり、東京都建築士事務所協会会長賞にふさわしい。
 「庁舎建設に関わるパートナー(発注者、利用者、設計者、施工者)夫々が立場に応じた責任と情熱を持ち、シンプルに取り組むことである」ということを、改めて確認しここで伝えたい。また、設計者は、調査研究を通じて以前より町に関わっていたことも書き添え、その日常の研鑽にも敬意を評す。(平倉 直子)
平倉 直子(ひらくら・なおこ)
建築家、平倉直子建築設計事務所代表取締役
1950年 東京都生まれ/日本女子大学住居学科卒業/日本女子大学、関東学院大学、東京大学、他、非常勤講師