YKK80ビル
日建設計
第44回東京建築賞東京都知事賞
建築主:
YKK不動産株式会社
設計:
株式会社日建設計一級建築士事務所
施工:
鹿島建設・戸田建設・大和ハウス工業
所在地:
東京都千代田区
主要用途:
事務所
構造:
SRC造、S造、一部RC造、免震構造
階数:
地下2階、地上10階、塔屋2階
敷地面積:
2,640.05m2
建築面積:
2,059.63m2
延床面積:
22,574.44m2
工事期間:
2013年2月〜2015年6月
撮影:
Rainer Viertlböck、鈴木 研一、Forward Stroke
設計趣旨:
都市における社会環境のストックをつくる
 YKK80ビルは、1963年より本社を構えていた秋葉原の神田和泉町に、創業80周年の節目にYKKグループの新たな拠点として計画されました。敷地の西側は首都高速道路が走る昭和通りに面し、東側には中小の建物が密集しています。グローバル企業の拠点として、機能性・信頼性・快適性・環境に配慮し、かつ長寿命な建築を追求するとともに、街にとっての佇まいを考えました。
 断面が20mm程度の華奢なアルミ押出型材で構成した西側のファサードは、西日をコントロールするとともに、内部からの景観をフィルタリングする役目を果たしています。このアルミのスクリーンが、多くの中小ビルがひしめくまちなみに対して、1枚の大きなファブリックを広げたようなソフトな表現となり、まちなみに対して新たな視覚的喧騒をつくることなく存在感を示しています。
 LEED認証の取得に取り組み、LEED-CSにおいてオフィスビルとしては日本初となる最高ランクのプラチナ認証を取得しました。さまざまな省エネルギー手法を取り入れるとともに、放射冷暖房+微気流による空調など、オフィスの快適性を高める取り組みをしています。一般オフィスビルに比べ、ビル運用時に63%のエネルギー削減を、快適性を犠牲にすることなく厳しい都市環境の中で実現しています。(亀井 忠夫)
亀井 忠夫(かめい・ただお)
1955年 兵庫県生まれ/1977年 早稲田大学建築学科卒業/1978年 ペンシルバニア大学修士課程修了/1979年 H.O.K. ニューヨーク事務所 勤務/1981年 早稲田大学大学院修士課程修了/1981年 日建設計、現在、同社代表取締役社長
選考評:
 首都高沿い昭和通りに面した神田和泉町YKK旧本社ビルの建替計画である。通り越しに見る特徴的なメインファサードは、繊細なアルミ押出材をファブリックのように立体的に組み合わせた60m×35mの1枚のスクリーンが宙に浮き、建築のアイデンティティを示しながら軽やかな街の風景を生み出している。このスクリーンは、西日を効果的にカットしながら、外部からの視線を絶妙にフィルタリングすることで、心地よい内部スペースの実現に大きく寄与している。昭和通り沿いの歩道からこの建物に近づくと、半透明だったスクリーンが一転、一枚の金属の面となって現れる。とても20,000㎡を越す本社ビルとは思えない、まちなみに対してヒューマンなスケールの透明な1階エントランスゾーンとの関係は新鮮である。
 平面計画は、テナントビルの効率重視の計画とは異なり、エレベータや階段などの縦動線を分散させながらも見通しのよいワークスペースを生み出し、4階から屋上までをつなぐ階段が、本社オフィスならではのフロアを越えた協働作業やコミュニケーションの場を生み出している。この点も高く評価したい。
 特筆すべきは、大掛かりで特殊な設備システムを用いずに高いレベルの省エネルギー性能と快適性を実現したことで、日本のオフィスとして初めてLEEDプラチナ認証を取得し、これからのクリーンビルディングの開発モデルを示した点にある。大都市における建築のあるべき姿を示す東京都知事賞に相応しい作品である。(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立/1990〜2010年 早稲田大学非常勤講師/2011〜13年 同大学大学院客員教授