常盤の家
石井秀樹建築設計事務所
第43回東京建築賞戸建住宅部門優秀賞
建築主:
川名 宏昌
設計:
一級建築士事務所石井秀樹建築設計事務所
施工:
株式会社栄伸建設
所在地:
神奈川県鎌倉市
主要用途:
住宅
構造:
木造
階数:
地上1階
敷地面積:
337.15m2
建築面積:
124.83m2
延床面積:
123.03m2
工事期間:
2013年6月〜2014年3月
撮影:
鳥村 鋼一
設計趣旨:
 敷地周辺は風致地区の外壁セットバックおよび緑化の促進、歩道や公園などの公用地も緑化され成熟したまちなみが形成されている。
 この地或全体に広がる緑の空気感を身に泌みて過ごす生活は豊かであろう。さらに地域の緑を享受するだけでなく地域に貢献する互恵的な建築の建ち方で、次世代のまちなみ形成に貢献できればと期待した。そこで、この緑の空気感を自然と日常に感じられるように敷地全体に広がる平屋を計画した。敷地中央には室内外の主従関係が生まれないように、室内と同程度の広さの中庭を配し、中庭を取り囲む各住棟をずらしながら内外の有機的な一体感を高めている。さらに敷地外周部には凹みをつくり周囲との接点となる小さな庭を配置した。これは周囲の空気が敷地に入り込んで有機的に絡み合うイメージで「入り庭」と呼ぶことにした。「入り庭」の緑は近隣の緑と一体化して緑の層を形成し、お互いに適度なプライバシ一を保ちつつ、敷地内のアクティビティを地域へと表出するフィルタのような役割を果たしている。
 複数の庭によって、住戸内外、敷地内外が緩やかに溶け合い、空気感が一体となった豊かな生活が「入り庭」を通して表出し、まちなみへ豊かな表情が与えられればと期待している。
(石井 秀樹)
石井 秀樹(いしい・ひでき)
1971年 千葉県生まれ/1995年 東京理科大学(初見研究室)卒業/1997年 東京理科大学大学院(初見研究室)修了/1997年 architect team archum設立/2001年 石井秀樹建築設計事務所設立/2012年 一般社団法人建築家住宅の会 理事
選考評:
 北斜面のひな壇状の造成住宅地にあるが、日照上不利な条件を逆手にとり、平家でまとめている。また、敷地周辺との段差を利用して、塀を立てず植栽によって自立させ、まちなみに新しい景観をつくり出した。控えめであるが大胆な手法であり、その住み心地のよさに気がつく人はどれほどいるだろう。世代交代が始まる住宅地に新しい風を吹き込み、街角が変わっていく起爆剤になることを願う。
住まいというと、とかく室内に目が向きがちだが、ここの住人は外が好き。野外の気楽な振る舞いや、風や自然が漂う匂い、山々が折りなす中景、遠景を愛で暮らす。自らの敷地も十分周囲からの視線に寄与するべく、建物のボリュームを分割し、植栽を施している。この内と外が織り成す空間は、中庭をはさんで向き合う部屋によって、家族のコミュニケーションにも繋がっている。
 建物のボリュームを抑えるための工夫は随所に成され、設計者のこだわりと経験、これまで培ってきた技術や部位の納め方によるものであり、また、通気や断熱等の環境対策も手堅く、優秀賞にふさわしい。
そうした計画の中で、唯一気になったのは究極の個室としてトイレの扱いであった。
選考委員|平倉 直子
平倉 直子(ひらくら・なおこ)
建築家、平倉直子建築設計事務所代表取締役
東京都生まれ/日本女子大学住居学科卒業/日本女子大学、関東学院大学、東京大学ほか/現在、早稲田大学芸術学校非常勤講師