東京都庭園美術館
久米設計
第42回東京建築賞一般二類部門奨励賞
建築主:
東京都
設計:
株式会社久米設計
施工:
戸田・小沢組建設共同企業体
所在地:
東京都港区
主要用途:
美術館
構造:
鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:
地上2階/地下1階
敷地面積:
34,765.02m2
建築面積:
2,346.55m2(本館改修+新館増築)
延床面積:
4,241.28m2(本館改修+新館増築)
工事期間:
2012年7月〜2013年12月
撮影:
川澄・小林研二写真事務所
設計趣旨:
重要文化財である本館(旧朝香宮邸)の保存活用と建物の特性を活かした美術館活動の活性化を目的に、本館につながる新館の増築と共に庭園を一体的に再整備し、東京都庭園美術館の発信力を増すことが計画の主題であった。
隣接地の自然教育園の地下水脈の汚染防止、都市計画公園内の建築制限、日影による高さ制限、本館への基準法の既存遡及回避など、さまざまな制約から生まれた新館のボリュームに、ギャラリー2室と管理諸室を積層して納めた。ギャラリー1は空間気積を最大化するため大梁を排して構造体のPC床版を架けてそのまま現し、LEDでPCを均質に照らすホワイトキューブの展示室とした。対照的に、ギャラリー2は北側ハイサイドから自然光を導入する昼光の展示室とした。
本 館は、アールデコの邸宅を活かした展示空間に戻すべく、付加されていた展示用器具の整理と修復を行い、本館と新館の機能分化を明確にした。
新館のデザインは大判タイルのモノリシックな外装やガラススクリーン、トラバーチンの素材など、表現と素材を最小限に抑えた。これは、本館創建時、ヨーロッパでは既に興隆していたモダニズムを対比的に出現させることで、その時代の建築文化の脈動が再現できるのではないかと考えたからである。
(安東 直、前田 芳伸、川東 智暢)
安東 直(あんどう・すなお)
1958年 福岡県生まれ/1982年 早稲田大学理工学部建築学科卒業後、久米設計入社/現在、同社常務執行役員、設計本部副本部長兼設計長
前田 芳伸(まえだ・よしのぶ)
1971年 北海道生まれ/1997年 北海道大学大学院工学研究科建築工学専攻修士課程修了後、久米設計入社/現在、同社札幌支社主管
川東 智暢(かわひがし・としのぶ)
1978年 福岡県生まれ/2003年 法政大学大学院工学研究科建設工学専攻修了後、久米設計入社/現在、同社建築設計部上席主査
第42回東京建築賞選考評:
地盤の下に埋蔵文化財があり、杭や大きな基礎がつくれず、軽い構造であること、また以前建っていたホテル用途の建物の外壁範囲を逸脱しないことなどの制約の下、「旧朝香宮邸」の、象牙色のソリッドな外観印象を、乾式の大判タイルによって覆われたモダンな形式に翻訳して引き継ぎ、インテリアでは鉄骨フレームと照明組み込みのヴォールト型PC版で軽やかに構成している。
朝香宮邸がデザインされた当時のイコンとなる「バルセロナパビリオン」などの建築デザインを参照しながら、緻密で周到なディテールを駆使、ルネ・ラリックのガラスデザインが印象的な本館から、無理なく現代的世界に誘い入れている。また、重たい美術館全体の熱源プラントをこの建物に引き受けることで本館の負担を軽くし、本来の軽やかなあり様に戻している点など、抑制的であるが配慮の行き届いたアプローチが高い技量を示している。他方、軽量化が求められながら重厚でソリッドな外観印象をつくろうとした点や、その外観とPC天井のモチーフに一貫性がやや希薄な点などが、この作品を奨励賞に留めた。今後計画されているオリンピックまでの整備計画があるなど、庭園美術館全体は進化過程にあり、完成された時点で、初めて総合的な評価がなされると思われる。
選考委員|車戸 城二
車戸 城二(くるまど・じょうじ)
建築家、(株)竹中工務店 執行役員
1956年生まれ/1979年 早稲田大学卒業/1981年 同大学院修了後、株式会社竹中工務店/1988年 カリフォルニア大学バークレー校建築学修士課程修了/1989年 コロンビア大学都市デザイン修士課程修了/2011年 株式会社竹中工務店設計部長/現在、同社執行役員