日光東照宮宝物館
松田平田設計
第42回東京建築賞一般一類部門奨励賞
建築主:
日光東照宮
設計:
株式会社松田平田設計
施工:
清水鹿島東武特定建設工事共同企業体
所在地:
栃木県日光市
主要用途:
博物館
構造:
鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造
階数:
地上2階
敷地面積:
6,047.25m2
建築面積:
1,245.62m2
延床面積:
1,831.76m2
工事期間:
2013年6月〜2014年8月
撮影:
日暮 雄一
設計趣旨:
 日光東照宮の国宝をはじめとする貴重な宝物を、参拝者に広く展示公開する機能と、宝物を最適な環境で安全に収蔵する機能をもつ重要な施設で、日光東照宮400年祭を記念した事業のひとつとして計画された。
 計画地は文化財保護法における史跡「日光山内」の区域であると同時に、自然公園法における特別保護地区の区域にあり、宝物館は深い杉木立、歴史ある石垣や木造の歴史的建築群のなかに立地している。
 この世界遺産東照宮の歴史と自然に調和してたたずみ、その良好な環境を未来へと繋ぐ新たな和風デザインの展開を図った。伝統的な反りのある屋根は金属瓦棒葺きとし、耐候性や省エネ性に優れた現代的な外壁を組み合わせ、歴史的建築群と調和しながらも生まれるコントラストが、心地よい緊張感を持った環境を醸し出すことを意図した。
 また、大きなガラス開口部を設けることで、外部より参拝者を誘うとともに、内部空間においても外部の自然と歴史環境のなかにいることが意識できる計画とした。
 展示室や収蔵庫は国宝をはじめとする貴重な宝物を守るため、温湿度の高度なコントロールと高性能フィルターを装備した空調設備により、保存に最適な環境と安全性を保持する計画とした。
(岡田 和紀)
岡田 和紀(おかだ・かずのり)
1968年 東京都生まれ/1995年 日本大学大学院理工学研究科海洋建築工学修士課程修了後、株式会社松田平田設計入社/現在、総合設計室 第四建築設計部 主任
第42回東京建築賞選考評:
 日光東照宮400年祭の記念事業として、深い杉木立の東照宮境内に建てられた展示施設。多くの国宝を含む東照宮歴代の宝物を参拝者に展示する機能と適切に収蔵保管する機能が求められた。
 歴史的建造物や石垣に囲まれた立地条件を踏まえ、勾配屋根、軒裏垂木、建物を軽やかに浮かす外周回廊など、伝統的な和風建築様式を取り入れつつも、大開口ガラス、耐候性・省エネ性に優れた金属屋根や、石外壁といった新しい要素もさりげなく取り入れている。自然公園法の特別保護地区の制限に則った2階建て1,800m2というほどよいボリュームとスケールにより、周辺環境に調和する現代和風デザインが高いレベルで達成されている。
 勾配屋根周りのデザインについては、屋根反り、懸魚、棟飾り、垂木など、細部にわたり伝統的なディテールに忠実であるが、旧来の和風様式にやや寄り過ぎている印象を持った。微妙なバランス感覚が求められるところであるが、この建築の場合はよりシンプルで現代的なデザインでも「周辺環境との調和」という設計意図は達せられたのではないか。
 1階エントランスから吹き抜けで連続する2階展示ロビーは、大板ガラスの開口部により開放感を感じさせる心地よい空間となっている。大開口窓については、室内から逆に周辺の宝物(歴史遺産や杉木立等)を鑑賞させる展示装置としても機能しており、設計者の力量を感じさせる。
選考委員|宮原 浩輔
宮原 浩輔(みやはら・こうすけ)
一般社団法人東京都建築士事務所協会理事
​1956年鹿児島県生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、株式会社山田守建築事務所入社/現在、同代表取締役社長