諏訪2丁目住宅建替事業
松田平田設計
第42回東京建築賞東京都知事賞
建築主:
諏訪2丁目住宅マンション建替組合
設計:
株式会社松田平田設計
施工:
三井住友建設株式会社
所在地:
東京都多摩市
主要用途:
共同住宅、高齢者施設、保育所ほか
構造:
筋コンクリート造、一部鉄骨造
階数:
地上14階/地下1階
敷地面積:
64,399.93m2
建築面積:
20,461.61m2
延床面積:
124,904.05m2
工事期間:
2011年10月〜2013年10月
撮影:
吉田写真事務所
設計趣旨:
 本計画は、多摩ニュータウン初期の1971年に建設分譲された「諏訪2丁目住宅」640戸の一括建替事業である。
 約6.4haの敷地は最大18mの高低差を有し、成熟した豊かな緑が広がる。
 建て替えでは、住民が主体となり「耐震性・老朽化・バリアフリー・高齢化等の課題解決」を住環境再編の目標とした。
 従前組合員と新居住者を合わせ、1,249世帯、約3,000人の多世代による新たなコミュニティの形成に向け、設計理念を「環境・コミュニティ先進街区」とした。豊かな自然と緩やかな高低差を活かした「ランドスケープと建築」によって、美しい自然、樹々の緑と住まう人びとの生活が密接な関係を有する住環境を計画した。
 既存樹木は高木278本を保存、33本を移植し、保全活用した。ニュータウン開発前から残る雑木林での散策路や展望テラス、40年を経た大樹(ケヤキ、サクラ)を活かした交流の広場等、成熟した緑の連続と人を結びつける空間構成とした。多世代交流の誘発に向けては、家庭菜園、子供広場、ドッグランなど目的性のある施設を連携配置させた。
 地域の歩行者通路から中央の「ケヤキ広場」へかけて、デイサービス、クリニック、保育所、地元NPOのコミュニティカフェを配置し、「地域に開かれた新しい街並景観」を形成した。
(馬渡 誠治、田中 義之)
馬渡 誠治(まわたり・せいじ)
1958年 東京都生まれ/1984年 東京藝術大学大学院美術研究科修了、同年 松田平田坂本設計事務所入社/現在、同社取締役、設計統括
田中 義之(たなか・よしゆき)
1964年 長野県生まれ/1990年 明治大学大学院工学研究科修了、同年松田平田坂本設計事務所入社/現在、プロジェクト推進室部長
第42回東京建築賞選考評:
 多摩ニュータウンにおける初期の分譲団地を、総戸数2倍ほど、3,000人以上の人びとが住む街へと変化させた一括建て替えプロジェクトである。
 団地では、建物の老朽化や住民の増床希望に対応すべく早い段階から住民主体で建て替えが検討され、組合による建て替え決議後、プロポーザルにより事業推進体制が整えられた。恵まれた立地のポテンシャル、法改正の機会、景気変動のタイミングなどの良条件下にあるとはいえ、住民の熱意と、これに応える建設関係者の確かな力量があってこそ成立したプロジェクトといえる。建て替え事業において設計者が担うべき役割は、住民の懐に入り込んで要望を理解し、計画案を作成し、これを丁寧に説明し、意見交換を実施して合意形成を図るという、たいへんな労力を要するものである。住民の方々からの設計者への信頼は入居後の現在においてもたいへんに厚く、現地にてさまざまなエピソードをうかがった中からも、信頼を獲得しながらこの地道な役回りを着実に果たしていった底力が感じられた。
 住民の戻り率は90%以上と非常に高く、市内外から多くの若い世代が新規購入者として入居したことも、計画に対する高い評価を窺わせる。豊かな緑を再構成しながら快適な住棟構成が計画され、意匠的にはオーソドックスな高層マンションといえる中にも、住戸のスケールを感じさせる配慮や住棟の個性の演出など、細やかな工夫が凝らされている。
選考委員|國分 昭子
國分 昭子(こくぶん・あきこ)
建築家、株式会社IKDS 共同代表
1988年東京大学工学部建築学科卒業後、槇総合計画事務所/1997年より株式会社IKDS/2013年東京大学工学系大学院都市工学専攻にて博士号取得