燕市庁舎
梓設計
東京建築賞・第41回建築作品コンクール 一般二類部門|優秀賞
建築主:
燕市
設計:
梓設計
施工:
竹中・中越・丸長燕市新庁舎建築特定共同企業体
所在地:
新潟県燕市
主要用途:
庁舎
構造:
鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
階数:
地上4階、塔屋1階
竣工:
2013年3月
撮影:
株式会社ミヤガワ
設計趣旨:
燕市新庁舎は、4つの「えん側」の立体的な繋がりで、市民同士、市民と行政の燕(えん)を結び、賑わいあるまちづくりの拠点となる庁舎づくりを行った。
開放的な吹き抜け空間に浮遊する交流・待合スペース「ふれあいのえん側」を庁舎南側の広場に面して設け、訪れる人のコミュニケーションを誘発し、市民の一体感の醸成を図った。えん側と広場は一体活用が可能で、災害時に連携が容易な計画としている
外装は、金属加工産業の盛んな燕市を象徴するステンレスの外皮と、ガラスを主体とした透明感あるファサードとし、市民や職員の活気ある姿をまちに向かって発信している。
また、自然エネルギーを最大限活用するため、環境シミュレーションを実施、設計へのフィードバックを行った。省エネ技術も積極的に採用し、新潟県初となるCASBEE Sランクを取得している。
さらに、構造、設備、建築計画が一体となり、合理的で快適な執務空間を実現している。PCaPC床版、床吹き出し空調の採用など、階高を抑えながら開放的な執務環境を創出している。
(永廣 正邦、土井 英尚、木村 麻美)
永廣 正邦(ながひろ・まさくに)
1960年 熊本県生まれ/1984年 法政大学工学部建築学科卒業/1989年 梓設計入社/現在、執行役員・永廣スタジオリーダー
土井 英尚(どい・ひでたか)
1973年 山口県生まれ/1998年 横浜国立大学大学院修了後、梓設計入社/現在、設計室Dスタジオ主任
木村 麻美(きむら・あさみ)
1984年 群馬県生まれ/2008年 千葉大学大学院自然科学研究科建築専攻修了後、梓設計入社/現在、設計室志賀スタジオ主任
東京建築賞・第41回建築作品コンクール選考評:
3市町の合併により新しく計画された新市庁舎の敷地は、周辺に何もない田園地帯の真ん中にスクエアな型で設定された。各々の町の中心から隔たった場所で、来庁者のための多くの駐車スペースが必要となり、結果敷地の中央に駐車場に囲まれて庁舎と広場が配置された。
市庁舎はコンパクトに、かつ正統的にまとめられた平面型で、南面する広大な広場と一体となったコミュニケーションスペースが大きな特徴となっている。
「えん側」と名付けられたこのスペースは、4層の吹き抜け空間の中に浮遊するように多層のデッキがレベルと位置を変えて展開し、さまざまな場所でのコミュニケーションが互いに視認されるように構成されている。
南面の広大な広場に面した大きなガラスカーテンウォールからの充分な陽光の中で、この浮遊するデッキは魅力的な空間をつくり出している。
平面型の中央にはエコボイドとしての吹き抜けをとり、ドラフトによる自然換気と自然採光に役立てている。太陽光発電、雨水利用、蓄熱式空調システム、床吹き空調などの省エネシステムを駆使し、構造計画上も免震構造、プレキャスト無梁版、吹き抜け部分の細い鉄骨柱の採用など、充分に練られた計画が感じられる。大きく張り出した庇が外観を端整にまとめ、外装には地場産業を象徴するステンレス鋼板を使用し、シンプルな形態が、なにもない田園の中での存在感を高めている。
市庁舎としての特に新しいコンセプトは見られないが、従来の手法をさまざまに駆使してシンプルで完成度高くまとめられていて、若いスタッフが意欲的に取り組んだ好感の持てる作品である。
(岡本 賢)
岡本 賢(おかもと・まさる)
建築家、(一社)日本建築美術協会会長
1939年東京都生まれ/1964年 名古屋工業大学建築学科卒業後、株式会社久米建築事務所(現・株式会社久米設計)/1999年 同代表取締役社長/2006年 社団法人東京都建築士事務所協会副会長/2014年 一般社団法人日本建築美術協会会長