西原の壁
SABAOARCH
東京建築賞・第41回建築作品コンクール 戸建住宅部門|最優秀賞
建築主:
非公開
設計:
株式会社SABAOARCH
施工:
有限会社エヌケー
所在地:
東京都渋谷区
主要用途:
専用住宅
構造:
鉄筋コンクリート造
階数:
地上2階、地下1階
竣工:
2013年12月
撮影:
大野 繁、西嶋 祐二、SABAOARCH
設計趣旨:
樹木の闇と奥をつくり出す壁
幅3mで両側道路という敷地で、快適に棲める領域をつくり出すために、環境と人をぎりぎりの薄さの中でどのように対峙させるかということに力を注いだ。
周辺の屋敷林の樹木の構造に倣い、東西の光を制御する壁と南北の自然の風を導くガラス窓のふたつの要素が構想された。
東西の壁は木目のついた荒い凸凹のコンクリートに小さな窓や異形窓を偶発的に穿ち、都市との間に独特の陰影や距離感、コミュニケーションをつくり出している。
そこでは物質塊としての強さや建築性と、現象としての弱さや透明さがせめぎ合うもの、いい換えると、その薄さの中に奥行きが存在し、境界の現象的弱さの中に物質的な強さが存在するものを目指した。
内部は壁窓と南北の開口によって自然の光と影が確保されて閉塞感がなく、また、通行の多い道路を感じつつも意識することなく生活できる快適な空間となっている。
結果として閉じつつも人を都市へと接続し、住居の起源としての樹木がつくり出す奥性と生命的な闇をもたらす。
(桑原 賢典)
桑原 賢典(くわばら・まさのり)
1973年 岐阜県生まれ/1998年 早稲田大学大学院修了後、株式会社北川原温建築都市研究所入社/2008年 SABAOARCH一級建築士事務所設立/2010年〜2014年 早稲田大学非常勤講師
東京建築賞・第41回建築作品コンクール選考評:
道路の中央分離帯に建てられたかと思わせるような戸建住宅である。敷地は幅が3mで細長い。最も私的な空間である住宅が最も公的な空間である道路に挟まれて建つなら、安全とプライバシー確保のため強固な壁で囲まれたた空間とならざるを得ない。設計者によって「壁」と名づけられたこの住宅は、その名の通り分厚いコンクリート壁で囲まれて道路中央に屹立している。日常的に人と車が行き交う空間の中に、剛強な壁を違和感なく立てることと、壁で囲まれた内部を明るく風通しのいい快適な居住空間にすることに、設計者の心血が注がれている。
打ち放しコンクリートの型枠に用いられたスギ板の木目がくっきりと残る壁は、通りがかりの人が「木造か?」と見間違えるほど柔らかな表情を持っている。それだけなら他にも類例は少なくないが、その壁に凹凸をストライプ状につけた上に、形状が不定形なポツ窓を穿った壁は、コンクリート壁に柔らかな風合いを持たせている。そのために必要であった型枠の形状とコンクリート打設の苦労を考えれば、設計者自身が生コンを竹棒で突いて回ったという話も頷ける。
建物両側の長い壁に点在するポツ窓と、短辺方向の高い壁に囲まれたテラスからの陽光と風が、外観からの想像を遙かに超えた快適な居住空間を生み出している。設計者の設計から施工までに向けた情熱が見事に結実した作品であり、最優秀賞にふさわしい建築と評価された。
(金田 勝徳)
金田 勝徳(かねだ・かつのり)
構造家、構造計画プラス・ワン 代表、工学博士、構造設計一級建築士、JSCA建築構造士
1968年 日本大学理工学部建築学科卒業/1968〜86年 石本建築事務所/1986〜88年TIS&Partners取締役/1988年〜現在 構造計画プラス・ワン 代表取締役/2005〜10年 芝浦工業大学工学部建築学科 特任教授/2010〜14年 日本大学理工学部建築学科 特任教授