柿の木坂通りの家
設計|若松均建築設計事務所
第49回東京建築賞|戸建住宅部門 優秀賞
北西コーナーからの夕景。
  • 北西コーナーからの夕景。
  • 2階リビングより北方向を見る。
  • 2階ダイニングより南側のリビング方向を見る。
  • 1階寝室より南方向を見る。
  • 3階よりダイニングを見下ろす。
  • 配置・地階平面図
  • 1階平面図
  • 2階平面図
  • 3階平面図
  • 南北断面図
建築主:
個人
表彰建築士
事務所:
株式会社若松均建築設計事務所一級建築士事務所
施工:
株式会社東京組
所在地:
東京都目黒区
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造、一部RC造
階数:
地下1階、地上3階
敷地面積:
95.39㎡
建築面積:
60.85㎡
延床面積:
195.16㎡
竣工:
2021年12月
撮影:
中山 保寛
設計趣旨:
 敷地は目黒の住宅地の一角。決して広くない都市部の住宅地では開放的な生活の場を得るのは難しい。「大きな気積」のなかで、おおらかな自由さが得られ、いつまでも新鮮さを失わない環境を求めた。
 住まい手の身長や家具の寸法、生活スタイルから想定した部屋単位の大小さまざまな気積を、ひとつの大きな気積に立体的に組み合わせる。個々の気積はスケールとプロポーションの差異を残し「滞留的な認識」を生む。一方で各階の床はそれぞれ違う平面形となって現れ、床と天井が一致しないオープンエンドな空間がさまざまな方向に連なり、密度の濃い「流動的な認識」を生み出している。
 このふたつの認識によって形成された場は、差異のある空間の相関として捉えられる。大・小、高・低、明・暗などさまざまな対比は建物の内部において相対的な内・外の関係をつくり、ニュートラルで透明な空間構成となって住まい手に居場所の発見と、選択の余地をもたらしている。
(若松 均)
若松 均(わかまつ・ひとし)
若松均建築設計事務所
1960年 東京都生まれ/1985年 東京工業大学建築学科卒業/1989年 奥山信一とDESK5を共同設立/1999年 若松均建築設計事務所に改称/1999年〜 武蔵野美術大学、東京理科大学、日本大学、宇都宮大学、昭和女子大学、茨城大学にて非常勤講師を歴任/2016年〜前橋工科大学教授
選考評:
 目黒の閑静な住宅地に建つ若い家族4人のための4階建ての住宅である。外部からは一見閉鎖的に見える印象とは異なり、その「大きな気積」の内部空間は、屋上ルーフテラスまでがひと続きとなるスキップフロアが立体的に組み合わされ、流動的に変化するシークエンスが心地よい。外の光景を縁取る大小さまざまな窓開口部、また照明器具や程よい装飾性を持つ家具調度品が絶妙な間を空けて配置されている。その抽象性ゆえか、空間的な距離感または心理的かかわり感によるものか、安心感に満たされる住まいである。また、エントランス吹き抜け部に置かれたガジュマル周辺の木陰のような居場所づくりや、外光が差し込む木製内開窓の設えなど、あたかも外部にいるかのような空間印象を随所につくり出している。特に、空間の中心に位置するダイニングスペースに立つと、内と外が反転し、外部テラスにいるような感覚に包まれる。壁面入角部での換気通風が行える開口部の配置等にも機能面での細やかな配慮がなされており、卓越したバランス感覚のもとで、空間全体に生活のリアリティが感じられる居心地のいい場が見事につくられている。
(北 典夫)
北 典夫(きた・のりお)
鹿島建設株式会社建築設計本部長、専務執行役員
1958年横浜市生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、鹿島建設株式会社