斜と構
設計|加藤大作/UND
第49回東京建築賞|戸建住宅部門 最優秀賞
ダイニング・キッチンより3階リビングを見る。
  • ダイニング・キッチンより3階リビングを見る。
  • 3階リビング上部。*
  • 正面外観夕景。
  • 周辺のまちなみ。*
  • 配置図
  • 1階・1.5–2階平面図
  • 2.5–3階・3.5–屋上階平面図
  • 断面図
  • 構造ドローイング
建築主:
個人
表彰建築士
事務所:
UND一級建築士事務所
施工:
株式会社広橋工務店
所在地:
東京都墨田区
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造(軸組工法)
階数:
地上3階、塔屋1階
敷地面積:
30.19㎡
建築面積:
19.30㎡
延床面積:
58.23㎡
竣工:
2021年12月
撮影:
藤井 浩司、*UND
設計趣旨:
木造住宅密集地域における狭小住宅の類型から骨格を捉え直す
 「タイニーハウスを建てたい」と、建主が探してきた土地は、わずか30㎡の超狭小地だった。木造住宅密集地域で感じる特有な空気感は、路上に溢れ出たモノの配置により巧妙に揺らぐ生活領域と路地が密接する距離感に留まらず、個々の建物が密集し群がることにより、集団規定やその他制度を軽く飛び越えるような解放性に起因するはずだ。
 本計画では辺り一帯に張り巡らされた狭隘道路や、そこに建ち並ぶ狭小住宅の類型から、その骨格を再考する試みとした。まず荒川の浸水対策として生活領域を上階に持ち上げた。その上で建物間口3.0mを開放し、奥行6.3mの前後に緩衝帯となる小さな床をずらして積層し、周辺の密接する距離感に慎重に参加する構えとした。
 水平力を負担し床の振れ止めを担うブレースがスキップフロアを立体的に貫く内部は、あたかも雑然とした狭隘道路が折り畳まれたような立体路地空間となった。力学的に壁量の多い下階から立体ブレースが導くその先に東京スカイツリーを望む。
(加藤 大作)
構造について:
 断面の大きい木ブレースを設けることにより、間口の狭い木造の建物で開放性を持たせたまま梁間方向の耐震性を確保した。
 スキップフロアのそれぞれの床面が、地震時に偏心しないよう壁やブレースを配置した。
 鉛直要素による水平力伝達が困難な箇所では階段面に合板を貼り、隣のフロア面に水平力を伝達できるようにした。
(川田知典構造設計)
加藤 大作(かとう・だいさく)
UND一級建築士事務所
1979年 神奈川県生まれ/2003年 東京理科大学工学部第一部建築学科卒業後、2004年 MDS一級建築士事務所入所/2015年 UND一級建築士事務所設立/東京工芸大学非常勤講師/2018年 東京建築士会住宅建築賞/2020年 JIA優秀作品選/Archi-Neering Design AWARD 2022入賞/2022年 JIA優秀作品選
選考評:
 木造住宅密集地域の狭隘道路に面する30㎡の狭小敷地、軟弱地盤という条件を受けながら、建築家は居心地のいい個性豊かな住宅を提案した。限られる資金と施工条件をやりくりし、構造的には鋼管杭と木構造、シャッターと断熱防火パネルでくるんだ室内空間は、スキップフロアで連続した立体空間としてまとめられている。
 先鋭的に奇を衒ったかに見える斜め柱でさえ大黒柱のような存在となり、身体寸法を十分確認しながら配置し、構成要素のひとつひとつを決めていったということが、その空間に身を置くとよくわかる。
 日射しや風の流れ、付近の街の様子や遠望するスカイツリーなどの戸外の環境も手中に収めつつ室内環境を整え、移ろう時を楽しみ暮す。そして、近隣親戚友人が集い、ご主人が手料理を振る舞う機会ができたとのことは何よりである。それもこれも周辺に建つ同じような条件の住宅の在り様とは異なるけれど、案外よさそうだと気付かせ、手に入れる方法を教えているからであろう。
 挑戦は建て主・施工者・建築家の協力と信頼のもとに生まれ、その周囲にも広がる可能性に期待し、最優秀賞とする。
(平倉 直子)
平倉 直子(ひらくら・なおこ)
建築家、平倉直子建築設計事務所主宰
1950年 東京都生まれ/日本女子大学住居学科卒業/日本女子大学、関東学院大学、東京大学、早稲田大学等の非常勤講師を歴任