菊名貝塚の住宅
設計|アトリエコ
第49回東京建築賞|リノベーション賞、戸建住宅部門 優秀賞
ホール。南方向を見る。
  • ホール。南方向を見る。
  • ピット2より見る。
  • 西側外観。
  • 南側アプローチからの夕景。
  • 断面アクソメ
  • 平面図
  • 断面図
建築主:
個人
表彰建築士
事務所:
アトリエコ一級建築士事務所
施工:
株式会社相川スリーエフ
所在地:
神奈川県横浜市港北区
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
142.49㎡
建築面積:
70.90㎡
延床面積:
56.69㎡
竣工:
2021年3月
撮影:
JUMPEI SUZUKI
設計趣旨:
 約15,000年前縄文早期の痕跡を残す貝塚跡地に建つ木造建物の改修である。建物はシェアハウス(6帖の部屋が6つ)として建てられたのち、3年後に改修前の状態で、私たちが移り住みはじめた。
 富士山を望む高台の平屋(一部2階)の可能性に魅せられ、貝塚を含んだ大地との暮らしに想いを馳せ、私たちは建物の一部に住み、季節毎に建物の具合を確認しながら、ゆっくりと解体を始めた。水平垂直の大きく長い空間軸・時間軸を意識し、基本設計3年半、工事期間6カ月、約4年の歳月をかけて新たな生活が始まった。
 基礎下から冷気や土の匂いや雨染みを受け入れる日もあれば、朝日と夕日がたっぷり降り注いで室を満たす日もある。床の面積は小さくなったが、体感は窟のある屋外のように開放的である。ホールと呼んでいる床からそれぞれのピット底までは、前面道路の傾斜に沿って深さが異なる。天井はアール形状を連ね長手方向に強調させた。
(小林 佐絵子、塩崎 太伸)
塩崎 太伸(しおざき・たいしん)写真左
アトリエコ
1976年 生まれ/2000–01年 オランダ・デルフト工科大学/2009年 東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学)/2015年 アトリエコ共同主宰/2016年東京工業大学准教授
小林 佐絵子(こばやし・さえこ)写真右
アトリエコ
1977年 生まれ/2011年 東京理科大学卒業/遠藤克彦建築研究所、ゼロワンオフィスを経て、2015年 アトリエコ共同主宰/2018年 日本工業大学非常勤講師/2022年 東京理科大学非常勤講師
選考評:
 縄文早期の貝塚跡地に建つ木造6室のシェアハウスを、設計者自らが約4年にわたって、住みながら調査・改修を続けているリノベーションプロジェクトである。
 計画は、木造地上階の個室の間仕切りを、比較的新しい構造柱を残しながら解体し、ワンルーム空間とした上で、地下コンクリートピットを現しとして収納や書斎として活用している。その上で、大胆にも遺跡を掘り出すかのようにピット底盤にも孔を穿ち、通常は分断されている大地と住空間である地上階をピットを介して一体の内部空間としている。
 応募時の書類や写真から漠然と感じていた、明るい爽やかなリノベーション住宅というイメージは、現地に行っていい意味で見事に裏切られた。住みながら改修するという設計者以外ではできない手法であるが、現地で感じたことを時間をかけて形にしたことによる間違いのないスケール感、そして上部から差し込む光や隣地擁壁に向かい合う地窓のような開口からの光と、地下へ開いていく中で生まれている影からなる静かな空間は見事であった。
 既存の建物では全く見えなかった空間の持つ力を、解体しながら発見し、建築として見事に昇華させている。優秀賞、リノベーション賞に相応しい驚きの住宅である。
(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
建築家、プランツアソシエイツ主宰
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立