上井草の住宅
川辺直哉建築設計事務所
第48回東京建築賞|戸建住宅部門優秀賞
北側のT字路より見る。
  • 北側のT字路より見る。
  • 2階テラスより見る。
  • 1.5階より北方向を見る。
  • 2.5階より北方向を見る。2階テラスが見える。
  • 2階より南方向を見る。下部は1.5階のLDK。上部は2.5階の部屋2。
  • ダイアグラム
  • 平面図
  • 断面図
建築主:
個人
設計:
一級建築士事務所株式会社川辺直哉建築設計事務所
施工:
株式会社FORM GIVING
所在地:
東京都杉並区
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造
階数:
地上2階、地下1階
敷地面積:
54.11㎡
建築面積:
27.03㎡
延床面積:
67.10㎡
工事期間:
2020年2月〜2020年7月
撮影:
川辺 明伸
設計趣旨:
 狭小敷地において広い床面を確保することは難しい。この住宅では、物理的な面積ではなく、体験としての広がりを獲得することを目指した。敷地の正面のT字路や隣地の敷地境界線上の隙間、道路斜向いの草木や、敷地内から飛び出した既存樹木が、視線を外へと導く。これらの要素をこの住宅の体験と視覚的に結びつければ、物理的な広さを超えた領域を生活に取り込むことができるはずだ。
 この計画では、建築の平面を大きくふたつに分割し、地下から屋根まで半階ずつずらしながら積層させている。その中央にあえて視線を遮るようにモルタルで仕上げた構造壁を配置し、階段はこの壁に纏わりつくように配置され、その周りを回遊する動線が生まれる。
 壁柱を重心とした回転運動は上下の移動を伴うことで、固定された視点ではなく、視線がその遠心力により外周に引き寄せられる。開口やテラスを介して周囲の領域へと意識が拡張することで、物理的な小ささが、積極的な広さの獲得へと転換されるのではないかと考えた。(川辺 直哉)
川辺 直哉(かわべ・なおや)
川辺直哉建築設計事務所
1970年 神奈川県生まれ/1994年 東京理科大学工学部建築学科卒業/1996年 東京芸術大学大学院修士課程修了/1997〜2001年 石田敏明建築設計事務所/2002年 川辺直哉建築設計事務所設立
松本 和樹(まつもと・かずき)
川辺直哉建築設計事務所勤務
1993年 東京都生まれ/2016年 法政大学建築学科卒業/2018年 法政大学大学院修士課程修了/2018年〜 川辺直哉建築設計事務所
選考評:
 杉並の良好な住宅地の一画に建つ住宅。だが敷地はミニマムである。この住宅の外観デザインにはあえて統一的なデザイン処理を拒絶したところがあって、かつてロバート・ヴェンチューリが「陳腐な」「既製品」が「寄せ集められた」建築を、「アグリー・アンド・オーディナリー」と名付けたが、まさにこの建物は現代日本の「アグリー・アンド・オーディナリー」なのである(誤解が生じないように付記しておくが、上記の括弧付きの言葉はこの文脈の中ではすべて褒め言葉である)。
 内部に入るとまったく別の印象になる。内部はスキップフロア状の空間構成になっている。玄関から続く半地下階にはバスルームと仕事部屋があり、玄関に続いて3つの室(キッチンとダイニング、多目的室、最上階が寝室的多目的室)が、スパイラル状に連続する。それぞれの室には半屋外空間や大きな開口部が設けられていて、空間変化とリズミカルな連続感がいかにも快適である。外部からはスケールアウトかつ唐突に見えた大きな開口部も、内部空間では適度な開放感と採光や通風、プライバシー確保のため、適材適所に配置されていることがよくわかる。
 スキップ階段中央の構造材がこの住宅の主要な構造材ということだが、規模こそ小さいが構造的にはおそらく難解なこの住宅の構造設計を実現した構造家にも拍手を送りたい。(渡辺 真理)
渡辺 真理(わたなべ・まこと)
建築家、法政大学デザイン工学部建築学科名誉教授、学校法人片柳学園理事、株式会社設計組織ADH共同代表
群馬県前橋市生まれ/1977年 京都大学大学院修了/1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了/磯崎新アトリエを経て、設計組織ADHを木下庸子と設立