8.5ハウス
設計 齋藤 隆太郎/DOG
   井手 駿
第47回東京建築賞|戸建住宅部門優秀賞
北側の国道1号線越しに見る。
  • 北側の国道1号線越しに見る。
  • 1階アトリエ・ギャラリー。
  • 2階への階段と絵画展示壁。
  • 2階リビング・ダイニング。
  • 断面図
  • 1階平面図(下)、2階平面図(上)
建築主:
乙部 遊、乙部 京子
設計:
株式会社DOG一級建築士事務所
井手駿
施工:
新進建設株式会社
所在地:
神奈川県中郡二宮町
主要用途:
専用住宅
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
123.31㎡
建築面積:
55.95㎡
延床面積:
87.23㎡
工事期間:
2019年3月〜2019年10月
撮影:
高栄 智史
設計趣旨:
 この住宅は、東海道五十三次で知られる国道1号線(東海道)沿いに建ち、画家と妻、幼児と夫の母の3世代4人で暮らす狭小アトリエ付き住宅である。大磯(8番目の宿場)と小田原(9番目の宿場)の間に位置する二宮町でアトリエを営み、建主自ら8.5という隙間を紡いでもらうことがテーマとなっている。自身の作品を飾る大きな展示壁で居住エリアとアトリエを分けている。アトリエはショップや寄合所として使われたり、時に制作・生活シーンをさらけ出す。敷地北側の東海道に日が差すように壁を兼ねた傾斜屋根とし、さらに平面対角線の展示壁によって、立体図形的に「広い・狭い」「高い・低い」が掛け合わされ、日常生活の中であえてスケール感を揺さぶることで、味わい深く住みこなす家となる。そして8.5ハウスが核となり、施主が町のガレージに壁画アートを施す等、二宮町界隈を「エリア8.5」としてアート再生計画が始まり、広がりを見せつつある。
(齋藤 隆太郎)
齋藤 隆太郎(さいとう・りゅうたろう)
DOG一級建築士事務所
1984年 東京都生まれ/2006年 東京理科大学工学部建築学科卒業/2008年 東京理科大学大学院工学研究科建築学専攻修了/2008 – 14年 竹中工務店設計部/2014年〜 DOG一級建築士事務所/2015年~ 日本工学院非常勤講師/2021年 東京大学大学院工学研究科建築学専攻博士後期課程修了 博士(工学)取得/2021年~ 東京大学大学院工学研究科建築学専攻特任研究員
井手 駿(いで・しゅん)
日建ハウジングシステム アソシエイトアーキテクト
1984年 神奈川県生まれ/2006年 東京理科大学工学部建築学科卒業/2008年 東京理科大学大学院工学研究科建築学専攻修了/2008年~ 日建ハウジングシステム/現在、同社アソシエイトアーキテクト
選考評:
 国道1号線(東海道)沿の普通の住宅が連なる一角に特異な形態をしたアトリエ付住宅が現れた。建築主はアーチストでこの住宅建築をきっかけにこの地域二宮町にアートを展開させ、いままで特徴がなかった町にアートを展開し、町の個性を育て発展させたいと願っていた。1階はギャラリー兼スタジオで巨大な展示壁面によって背面の住居スペースと区分している。この巨大壁面が特徴的で外観の3角形の屋根形状を構成している。この壁面は展示壁面であるとともに2階に至る階段を支持して上階のリビングへと導いていく。狭隘であるが3角形の高い吹き抜け空間は大きな開口部から外光を充分に取り込み、アーチストらしいさまざまな作品と連携して居心地のよい空間を実現している。
 この二宮町は、古来江戸から8番目の宿場町大磯と、9番目の宿場町小田原の中間になることから8.5ハウスと命名し、ランドマークとなるような特徴ある形態に敢えて挑戦して町の人びととの交流を促し、建築主と語らいながら刺激的な空間構成を試みた設計者の意欲を評価したい。ひとりのアーチストと建築家の協働によって町起しに発展し、二宮町が魅力ある地域に変貌していく姿を期待したい。(岡本 賢)
岡本 賢(おかもと・まさる)
建築家、一般社団法人日本建築美術協会 AACA建築賞選考委員
1939年東京都生まれ/1964年 名古屋工業大学建築学科卒業後、株式会社久米建築事務所(現・株式会社久米設計)/1999年 同代表取締役社長/2006年 社団法人東京都建築士事務所協会副会長/2014年 一般社団法人日本建築美術協会会長