旧山口萬吉邸 / kudan house
改修設計|竹中工務店
第47回東京建築賞|リノベーション賞、一般一類部門奨励賞
奥を感じさせるアプローチ。
  • 奥を感じさせるアプローチ。
  • 南側外観。緑豊かな庭に溶け込むスパニッシュ様式の洋館。
  • 1階ビジネスラウンジ。
  • 1階応接室。
  • 1階ライブラリー。
  • 平・立・断面図
建築主:
東急株式会社、株式会社 竹中工務店、東邦レオ株式会社
改修設計:
株式会社竹中工務店東京一級建築士事務所
施工:
株式会社東京理建
所在地:
東京都千代田区九段北1-15-9
主要用途:
事務所
構造:
RC造
階数:
地上3階、地下1階
敷地面積:
1,116.33㎡
建築面積:
313.52㎡
延床面積:
839.07㎡
工事期間:
2018年1月〜2018年6月
撮影:
株式会社ミヤガワ
設計趣旨:
建築・歴史・場所・環境を活かした保存再生計画
 旧山口萬吉邸は、東京都千代田区九段の高台に位置し、都心でありながら靖国神社や千鳥ヶ淵など自然豊かな環境の中にある。昭和2(1927)年、内藤多仲、木子七郎、今井兼次といった当時のトップアーキテクトが協働して建てられたスパニッシュ様式の意匠を持つ邸宅であり、震災・戦災を生き延びた歴史的希少性の高い建築である。
 この希少な建築が持つ空間の魅力を後世に継承し、広く社会の共有財産とすべく、既存との同調・対比的な設計手法を軸に、機能を住宅から会員制シェアオフィスにコンバージョンさせることで、建築・歴史・場所を最大限活かした空間の再構築を行った。未来へ継承すべき意匠を慎重に保存しながら、既存意匠の一部や付加的な造作家具へ設備機能を内包する手法を展開させると同時に、庭を再編し屋内へ光・風を取り込むことで、快適な環境を実現させた。平成30(2018)年5月には、国の登録有形文化財に指定された。
(新妻 優輔、佐田野 剛)
新妻 優輔(にいつま・ゆうすけ)
竹中工務店東京本店設計部
1983年 福島県生まれ/2009年 早稲田大学芸術学校建築設計科卒業/2012年 早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了後、竹中工務店入社/現在、竹中工務店東京本店設計部/2021年〜 早稲田大学芸術学校非常勤講師
佐田野 剛(さだの・つよし)
竹中工務店東京本店設計部設計第1部長
1965年 岡山県生まれ/1988年 芝浦工業大学工学部建築学科卒業/1990年 東京都立大学大学院修士課程修了後、竹中工務店入社/2004年~芝浦工業大学非常勤講師
選考評:
 山口萬吉邸は内藤多仲、木子七郎らの設計で昭和2(1927)年に建設された、スパニッシュ様式の昭和初期としては珍しい壁式RC造の邸宅である。今回のリノベーションは、戦災に見舞われながらも一世紀近くを生き永らえた住宅の価値に着目し、立地性を活かして事業性を確保できる会員制シェアオフィスやギャラリー・ライブラリーにコンバージョンすることで、さらに未来に向け歩みを進めることを目指したものである。
 新たな用途に応えるべく、快適性・省エネ性向上ための最新設備の追加や空間の再構成を行いつつも、当時の設計思想を尊重し、当初意匠を注意深く保存・再生している。さらに、洋室をコンバージョンしたライブラリーに代表されるように、新旧材料を上手く活かしたデザインにより、まるで当初からのような自然でモダンな空間が創出されている。庭園の設えについても、靖国神社や千鳥ヶ淵にほど近い敷地ならではの落ち着いた緑豊かな佇まいが維持されている。時を刻んできた住宅の歴史的・文化的資産としての魅力を守りながら、新たな価値を持った公共財として生まれ変わらせることに成功しており、リノベーション賞に相応しい作品である。(宮原 浩輔)
宮原 浩輔(みやはら・こうすけ)
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事、一般社団法人東京都建築士事務所協会常任理事、港支部、株式会社山田守建築事務所
1956年鹿児島県生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、株式会社山田守建築事務所入社/現在、同代表取締役社長