吉祥寺の家
設計|辻昌志建築設計事務所
   川辺直哉建築設計事務所
第47回東京建築賞|新人賞、共同住宅部門優秀賞
路地のようなアプローチ通路。
  • 路地のようなアプローチ通路。
  • 住戸内に表れる動的な屋根。
  • 半地下とした高天井のメゾネット住戸。
  • 1階平面図
  • 断面図
建築主:
尾張屋土地株式会社
設計:
株式会社アートテック東京事務所辻昌志建築設計事務所一級建築士事務所
一級建築士事務所株式会社川辺直哉建築設計事務所
施工:
株式会社礎コラム
所在地:
東京都武蔵野市
主要用途:
長屋(12戸)
構造:
木造、一部RC造
階数:
地上2階、地下1階
敷地面積:
391.90㎡
建築面積:
207.24㎡
延床面積:
505.38㎡
工事期間:
2019年2月〜2019年11月
撮影:
太田 拓実
設計趣旨:
 住宅街に計画した12戸の木造賃貸集合住宅である。前面道路を引き込むように、コの字型の配置とし、街につながりながらも固有の外部空間を持った集合住宅として計画した。住戸間や近隣、住環境の確保、街との関係において、適切な距離をどう設定するかが、この閑静な住宅街では重要と捉え、アプローチ通路を街路のスケールと関係づけることで、住戸間と街にほどよいつながりをつくる「路地の様な共用空間」を目指した。路地の端は袋小路となるため、上階への階段を兼ねた小路で隣地側に抜けを設け、視線と風が通るようにしている。各住戸は画一的な平面の連続ではなく、重層長屋とし、プランや住戸形式、天井高さなど異なったユニットが集まることで、路地に面したファサードに新たなまちなみが生まれることを意図した。賃貸でありながら、路地に集う安心感と住戸の個別性によって愛着を持って長く住まうこともできる、寛容な「家」のあり方を思い描いた。
(辻 昌志)
辻 昌志(つじ・まさし)
株式会社アートテック辻昌志建築設計事務所
1982年 兵庫県生まれ/2004年 大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業/2005 – 13年 川辺直哉建築設計事務所/2013年 株式会社アートテック/2016 – 21年 東京大学生産技術研究所 特任研究員/2018年 株式会社アートテック辻昌志建築設計事務所設立/2021年 株式会社空間構想顧問
川辺 直哉(かわべ・なおや)
川辺直哉建築設計事務所
1970年 神奈川県生まれ/1994年 東京理科大学工学部建築学科卒業/1996年 東京芸術大学大学院修士課程修了/1997 – 2001年 石田敏明建築設計事務所/2002年 川辺直哉建築設計事務所設立
選考評:
 低層住宅街に計画された12戸からなる長屋形式の木造賃貸集合住宅である。正方形に近い矩形の敷地に前面道路からつながる中庭を囲むように分節して配置することで、全体は周辺の戸建て住宅のスケールと違和感のないボリュームでまとめられており、街の風景としてとても心地よい。前面道路を引き込んだアプローチ空間によって、住宅としての採光・通風も十分確保されている。また、敷地内での用途地域の切り替わりを利用して、敷地南側は半地下を持つ3層構成として必要な床面積を確保するとともに、半階ずれた断面構成によって見合いの問題も無理なく解決している。
 共同住宅ではないため、いわゆる共用部は存在しないが、前述の囲まれたアプローチ空間が「路地のような共用空間」となることで、ひとつながりの勾配屋根の下で「集まって住む」かたちが提案されている。すべての住戸を見学できたわけではないが、長屋ながらの多様なアプローチから展開される変化に富んだ住居スペースも魅力的であった。
 住戸を積層した断面構成におけるメンテナンスや音の問題にも細かな配慮がなされており、派手さこそないが、ローコストでありながらも良質で好感の持てる新人賞にふさわしい作品である。(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
建築家、株式会社プランツアソシエイツ
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立/1990〜2010年 早稲田大学非常勤講師/2011〜13年 同大学大学院客員教授