ISANA
ニコ設計室
第40回建築作品コンクール 共同住宅部門最優秀賞
施工:
山縣建設(株)
建築主:
バシスト・ニティア・キショール下窪 美奈子
所在地:
東京都武蔵野市
主要用途:
長屋
構造:
RC造+木造
設計趣旨:
オーナーの故郷インドでは、自分の家と同時に貸し室を作る風習があります。最初オーナー住戸は最小限の大きさですが、将来、貸し室のいくつかは子供室となり、その時の家族の大きさに合わせて拡張します。しかし、もっと先の数十年後にはまた今の形態に戻るかも知れない伸縮自在の住まい方です。そういう意昧でISANAは、いくつかの家の集まりのようでもあり一つの家でもあります。一つの家をいくつかの家の集まりであるように設計をすると、一つの家のすがたは解体されて、誰のものでもありつつ、誰のものでもない、街のようなたたずまいとなりました。
森の木々は、大きく枝をさしだして、我々を包み、守り、受け入れ、シンプルな形なのにたくさんの生き物の居場所があります。あいまいにではなく強く、コンクリートでしつらえたひさしゃべンチは、オーナーのこの場所への願いを大きく現しています。小さな小さな場所としつらえの話ですが、大きな世界を夢見て。(西久保 毅人/ニコ設計室)
審査評:
敷地は武蔵野市の住宅地の一角にあります。しかし、一歩敷地に踏み込むとあたかも森の中に迷い込むような緑に囲まれます。これは木々の間に、小さな家型が寄り添うように凝縮した長屋形式の集合住宅です。
オーナーはご主人がインド人、奥さんは日本人で、お子さんがいます。インドでは家を建てる際に自分の家と同時に、貸家をいくつかつくる風習があるそうです。
その風習に習い、この建物はオーナー住居と6つの貸家の複合として計画されています。
親密なスケール感と開放感、住民によって共有される外部空間によって、オーナー家族と賃貸住宅に住む住民は、あたかもひとつの大家族を構成しているような、居心地のよさと安らぎを感じさせます。
事実、賃貸住宅居住者同士の交流によって一組のカップルができ、住居を広いところに移って住み続けているとも聞きました。オーナーの子どもたちも大きくなったら、独立してこの賃貸住宅に移り住むことも視野に入っています。
外部に差し出されたコンクリートの庇やベンチなどの設えによって、近隣住民をやさしく迎えたり、子どもたちの遊びのきっかけを作るなど、周辺環境を拒絶するのではなく、無理なく繋がっていく設計になっています。このような内外空間のスムーズな連続は、なにか昔懐かしい長屋の親しい人間関係を思い起こさせます。殺伐とした都市に暖かく息づく、ひとつの桃源郷のような住空間の現代的モデルとして高く評価したいと思います。
(栗生 明/(株)栗生総合計画事務所・代表取締役)