東村山の家
一級建築士事務所石井秀樹建築設計事務所
第40回建築作品コンクール 戸建住宅部門最優秀賞
施工:
ラスティック(株)
建築主:
岸 温
所在地:
東京都東村山市
主要用途:
専用住宅
構造:
鉄骨造
撮影:
鳥村鋼一
設計趣旨:
ご夫婦と愛犬のための住宅である。ご要望は外部とのプライバシーを確保して、家の中では自由な生活を楽しみたいとのことだ、った。これは純粋に空間の自由さを獲得するための計画である。空間の機能が行動を規定するのではなく自由な選択によって場の意昧が変わる、無目的な行動を受け容れる包容力のある空間、それは街路のようなものだと考えた。
街路では人々がその時々に応じて場を選択して意昧を与える。そこで、街路のような連続性を持ち、様々な行動を誘発する空間要素が鏤められた、多様性を持つ空間を意図した。刻々と表情が移り変わる二つの雑木林を巡る8の字の回遊空間を基本構成とし、仕上げ、ボリューム、明暗の差など空間要素の組み合わせによって連続的な多様さを与えた。キッチンや浴室も一つの空間要素として回遊空間の中に鏤めた。施主が日々新たな空間と出会い、この住宅との多様な関わりが生まれた時、真に空間の自由さを獲得したと言えるのかもしれない。(石井 秀樹)
審査評:
ゆとりある敷地条件とプログラムのもとで計画されたご夫婦のための住宅である。オーナーからのご要望である、生活を楽しむ自由さを獲得するための空間として設計者が計画したのは、室として設定される目的や用途という概念から離れ、室内と屋外を区別する感覚さえ失わせるほど自然にひとつづきに連続し、ゆるやかに変化する空間である。季節と時間によって表情が移り変わる雑木林の中庭の配置、すこしずつ変化する床レベルと3次元的に変化する木天井の構成、住むことにより派生する生活感を無理なく視覚の外にもちこむ機能性、ディテール等、設定されたテーマを実現する確かな力量が随所から感じられた。
住み手の住まいに対する希望、一定のタイムスパンにおける生活の想定、金銭的条件など、住宅の設計における様々な条件への応答としての設計者の着想、テーマ設定、それらを実空間として実現する能力は、今回の応募にて選外となった設計者の作品を含めて大変高い評価を得た。
設計者はこの空間を街路になぞらえているが、街路とは個々の主体が用意された空間を楽しむだけのものではなく、多種多様な人と都市社会の関わりにおいてはじめて成立するものである。個々の生活における充足感を与える存在としての一戸の住宅も、都市における建築であり、周辺の環境およびそのまちを生活の場として行き来する人々になにがしかの影響と作用をもたらす存在ともなり得る。そして住まい手は、その場所を選択しそこに暮らすことを表現する都市生活者でもある。今後の活躍が予想される設計者に、より多様な視点の取り入れと更なる進化への期待を込め、本作品が最優秀とされた。
(國分 昭子/(株)IKDS・共同代表)