池袋第一生命ビルディング
竹中工務店
第43回東京建築賞一般二類部門最優秀賞
建築主:
第一生命保険株式会社
設計:
株式会社竹中工務店東京一級建築士事務所
施工:
竹中・日本建設共同企業体
所在地:
東京都豊島区
主要用途:
事務所、飲食店舗
構造:
鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート
階数:
地下1階、地上10階、塔屋1階
敷地面積:
594.59m2
建築面積:
502.38m2
延床面積:
5,212.06m2
工事期間:
2013年3月〜2014年4月
撮影:
井上登
設計趣旨:
環境に「反応」するオフィス
 都市には広大な自然環境が潜んでいる。地面、空、風、光などの大きな環境は、人工物の背後に隠れてはいるが、人びとの生活を支える大切な要素である。これらの大きな環境に、純度の高い抽象的な建物が「反応」することで、都市に豊かな表情をもたらすことができないかと考えた。光と風を透過する白いコンクリートのメッシュが、周辺環境に反応しながら緩やかに変化している。空へ向かって細くなる骨格により、高層部は明るく開放的な執務室となっている。一方、低層部では限定された開口部が並木の緑を印象的に切り取り、道路の喧騒から守られた落ち着きのあるインテリアを実現している。西日をカットする彫りの深いファサードは北側では浅くなり、日射と眺望にきめ細かく反応している。環境に「反応」する行為によって場所毎の快適性が追求され、内外の関係を構築し、均質になりがちな賃貸オフィスビルに固有の表情を生み出している。
(花岡 郁哉、梅原 豊)
花岡 郁哉(はなおか・いくや)
1975年 東京都生まれ/1999年 東京大学工学部建築学科卒業/2001年 同大学院修了後、竹中工務店入社/現在、竹中工務店 東京本店 設計部 設計第2部門 設計4(アドバンストデザイン)グループ長
梅原 豊(うめはら・ゆたか)
1967年 静岡県生まれ/1990年 横浜国立大学工学部卒業/1992年 同大学院修了後、竹中工務店入社/2004年〜10年 ヨーロッパ竹中/現在、竹中工務店 東京本店 設計部 設計第4部門 設計2グループ長
選考評:
 池袋第一生命ビルディングは、豊島区が整備を進めている池袋駅前グリーン大通りに面する延床5,000㎡強の賃貸オフィスビルである。設計者は、都心商業地で最も多く見られる施設規模の均質になりがちな賃貸オフィスビルにおいて、標準的なコストを担保しながらも建築の持つ可能性に挑戦している。
 外装は基準階階高の1/2、1.8mを基準モジュールとしたプレキャスト版(H=3.6m)が、構造的合理性を伴って低層部から高層部へ緩やかに細く薄く変化している。白く塗装されたこの彫りの深いグリッド状の骨格に、水切もないシームレスな納りでスクリーンがはめ込まれ、シンプルでありながらもまちなみに豊かな風景をもたらしている。
 これだけでも充分高い評価に値するが、この作品の秀逸な点は、この外装モジュールと各階スラブを半コマずらした断面構成を発見した点にある。このズレによって内部オフィス空間は、地窓・腰窓・欄間の3種のスクリーンを介して外部と向かい合うこととなり、低層部の切り取られた開口部からは街路の緑が、高層部は明るい空を取り込んだ変化に富んだ心地よいワークスペースとなっている。共用部もエントランスホールを含め合理的で無駄のないプランニングの中に効果的に光のボイドを組み込んださわやかな空間となっている。賃貸オフィスのプロトタイプとなりうる高品質な建築であり、最優秀賞に相応しい作品である。
選考委員|宮崎 浩
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立/1990〜2010年 早稲田大学非常勤講師/2011〜13年 同大学大学院客員教授