みやむら動物病院
鈴木敏彦/ATELIER OPA + 西澤高男/ビルディングランドスケープ LVL技術監修:山代悟/ビルディングランドスケープ
第43回東京建築賞一般一類部門奨励賞
建築主:
株式会社みやむら動物病院
設計:
株式会社ATELIER OPA
有限会社ビルディングランドスケープ一級建築士事務所
施工:
株式会社大和工務店
所在地:
東京都江戸川区
主要用途:
畜舎(入院施設付き動物病院)
構造:
木層ウォール+在来軸組木造
階数:
地上3階
敷地面積:
170.30m2
建築面積:
108.28m2
延床面積:
246.09m2
工事期間:
2015年3月〜2015年10月
撮影:
齋藤 さだむ
設計趣旨:
LVL木層ウォールによる準不燃都市木造建築
 地域で人気の動物病院の移転増床にあたり、拡幅された道路に広く南面した細長い敷地に4つの診察室や入院、手術、CT装置等の設備と、居心地良い接客空間を備えた建築が要望された。
 南面外壁と東西面内外壁の一部に、構造材としてLVL(単板積層材)厚板壁「木層ウォール」を先駆的に採用した。これは積層面の美しさを引き出す建築材料として全国LVL協会の開発に私たちも参画したもので、厚さ150mmの構造体であると同時に無被覆で外壁として1時間準耐火の大臣認定を取得している。
 接客空間となる待合室は居心地よく過ごせるよう吹き抜けとし、「木層ウォール」の積層面を現しで用いた。竪穴区画となる面には強化石膏ボードの上に15mm厚の仕上用LVLを用い、3階医局サロンと共に積層面に包まれた空間を創出した。
 南面外壁は耐候性をもたせるため、構造材であるLVL壁柱の外側に透湿防水シートと通気層を介して30mm厚のLVL材を貼り、撥水防腐塗装を施した。内部空間はもとよりまちなみの中にも、これにより木の持つ表情を活かした景観を創出することができた。
(鈴木 敏彦、西澤 高男、山代 悟)
鈴木 敏彦(すずき・としひこ)
1958年 東京生まれ/1984年 工学院大学建築学科修士課程修了/1984〜90年 黒川紀章建築都市設計事務所/1985〜86年 フランス新都市開発公社EPA marne/1992〜93年 文化庁芸術家インターン/1995〜99年 早稲田大学建築学専攻博士課程/1999〜2007年 東北芸術工科大学生産デザイン学科助教授/2007〜10年 首都大学東京システムデザイン学部准教授/2010年 首都大学東京システムデザイン学部客員教授/2010〜11年 工学院大学建築都市デザイン学科教授/現在、工学院大学建築学部 教授/ATELIER OPA共同主宰
西澤 高男(にしざわ・たかお)
1971年 東京生まれ/1993年 横浜国立大学工学部建設学科建築学コース卒業/1995年 横浜国立大学大学院工学研究科計画建設学専攻修了/1994年〜 メディアアートユニット Responsive Environment 共同主宰/1995〜98年 長谷川逸子・建築計画工房/2002年〜 ビルディングランドスケープ一級建築士事務所共同主宰/2007〜12年 東北芸術工科大学 プロダクトデザイン学科准教授/2012年〜 東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科准教授
山代 悟(やましろ・さとる)
1969年 島根県生まれ/1993年 東京大学工学部建築学科卒業、Responsive Environment共同主宰/1995年 東京大学大学院修士課程修了/1995〜2002年 槇総合計画事務所/2002年 ビルディングランドスケープ設立共同主宰/2002〜07年 東京大学大学院建築学専攻助手/2007〜09年 東京大学大学院建築学専攻助教/2010年〜 大連理工大学建築与芸術学院 海天学者、客員教授/2017年〜 芝浦工業大学建築学部建築学科特任教授
選考評:
 「2015年10月の集計で全国の犬の飼育頭数は約991万頭、猫の飼育頭数は約987万頭」(一般社団法人ペットフード協会)と、このところペットの双璧である犬と猫の飼育頭数が拮抗している。関西大学の宮本勝浩名誉教授は「昨年1年間の猫関連の経済効果が総額で2兆円超だった」と推計し、猫1匹あたりの1年間の飼育コストを11万1424円と推定している。これにはえさ代、おやつ代、トイレ費用、医療費、ペットホテルといった臨時費などが含まれる(Eimei.TVより)──。
 このような時代背景をまったく知らないわけではない。しかし、この動物病院を訪れたあと審査員の間で、細長い待合室で犬と猫がケンカせずにおとなしく待っていられるのだろうかとか、大型犬を3階のCT室までどうやって運び上げるのだろうかといった喧々諤々の議論があったことを見ても、動物病院は建築型としてはまだまだ未知の世界である。人間の診療所の場合では専門の医療コンサルタントが医師と設計者の間に介在する場合が多いが、ネットで調べてみると動物病院分野でも同様な職種が活発に活動していることがわかる。某有名ハウスメーカーも参入しているくらいである。しかし、この設計者は賢明にも専らLVL(単板積層材)の活用という切り口からこの施設を説明する。LVL厚板壁「木層ウォール」(高強度耐力壁KEYLAM木層ウォール)による1時間準耐火壁の構造壁積層面を待合室側では現しで用い、屋外側では、LVL壁柱の外側に透湿防水シート、通気層の上に撥水防腐処理をした30mmのLVL材で仕上げている。その他の場所でも部位に応じて構造材・仕上げ材としてLVLを駆使している。木質化の潮流の中、LVL材を駆使した設計は今後どこまで到達することができるだろうか。
選考委員|渡辺 真理
渡辺 真理(わたなべ・まこと)
建築家、法政大学デザイン工学部教授、設計組織ADH共同代表
群馬県前橋市生まれ/1977年 京都大学大学院修了/1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了/磯崎新アトリエを経て、設計組織ADHを木下庸子と設立