山武市立しらはたこども園
竹中工務店
東京建築賞 第41回建築作品コンクール 一般一類部門|最優秀賞
建築主:
山武市
設計:
株式会社竹中工務店 東京 一級建築士事務所
施工:
株式会社竹中工務店
所在地:
千葉県山武市
主要用途:
こども園
構造:
鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
階数:
地上2階
竣工:
2013年3月
撮影:
勝田 尚哉、エスエス東京
設計趣旨:
東日本大震災の被害を受けて、沿岸部の4カ所の幼保施設をこども園として統合整備した。圧倒的な津波の力を乾式壁が受け流し、RC造の主要構造が耐えることで子どもたちの生命を守り、破壊部分を早期復旧するレジリエンシーの考えを取入れ、津波シミュレーションに基づく計画とした。
遊戯室を取り巻く回廊に沿って保育室や図書室等の諸室を機能的に配し、各所に中庭や開口部を効果的に設けることで、さまざまな方向に視線が抜けて目が行き届き、子どもたちの活動を促す構成とした。
遊戯室の屋上は、園庭から立体的な回遊動線で繋がる日常活動の場となる広場とし、非常時には避難場所の機能を持たせている。
伸びやかな勾配屋根を持つ保育室は、園庭側の地窓から回廊側に風が抜け、夏は日射を遮り冬は優しい光を取り込む、快適で省エネな空間としている。地域環境への配慮と防災機能の視点を合致させ、内外に楽しい回遊ができ交流を活性化させる施設としている。
(本村 英人、佐藤 琢)
本村 英人(もとむら・ひでと)
1961年 佐賀県生まれ/1985年 東京大学工学部建築学科卒業/1985年 竹中工務店入社/現在、竹中工務店 東京本店 設計部 部長 設計担当
佐藤 琢(さとう・たく)
1976年 東京都生まれ/2001年 東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻 修士課程修了/2002年 竹中工務店入社/ 現在、竹中工務店 東京本店 設計部 設計第1部門 設計1グループ 課長
東京建築賞・第41回建築作品コンクール選考評:
3.11東北地方太平洋沖地震によって、山武市内九十九里浜沿岸にあった4つの幼稚園と保育園が津波被害を受けた。これらの施設をひとつに統合してできたこども園である。
統合したとはいえ、沿岸から広がる平野が続く中にあったこれまでの施設近くに、高台があるわけではない。海岸から5km以上離れた新しい施設の敷地も、高さ2mの津波が予測されている。どうすればその津波から子どもを守れるかの課題に対する解答が「津波を受け流す」であった。その方法として考えられたのは、耐震性能を確保するための耐震壁以外の間仕切壁を、津波の際には流されることを前提とした乾式壁として津波の力を受け流す構造方式であった。
広い円形の遊技場を囲むようにしてかたちづくられた円と直線を組み合わせた平面形状は、開放感に溢れ、風通しのよい明るく伸び伸びとした内部空間の実現に成功している。また銀色に光る屋根と深くはね出した庇の外観は、この種の施設にありがちな過剰な賑やかさを抑えて、施設全体に落ち着きと安心感をもたらしている。
構造的にも施工的にも決して易しい形状の建築ではないが、さりげなく周到にその難しさを解決しながら、比較的低コストで建設されている。
その結果生み出されたこの施設が、施設に関わる人たちに災害を乗り越えた安堵感と誇りをもって受け入れられ、利用されている様子は感動的である。よって最優秀賞受賞作品にふさわしい建築と評価された。
(金田 勝徳)
金田 勝徳(かねだ・かつのり)
構造家、構造計画プラス・ワン 代表、工学博士、構造設計一級建築士、JSCA建築構造士
1968年 日本大学理工学部建築学科卒業/1968〜86年 石本建築事務所/1986〜88年TIS&Partners取締役/1988年〜現在 構造計画プラス・ワン 代表取締役/2005〜10年 芝浦工業大学工学部建築学科 特任教授/2010〜14年 日本大学理工学部建築学科 特任教授