T500CBM
川島鈴鹿建築計画
東京建築賞・第41回建築作品コンクール 戸建住宅部門|優秀賞
建築主:
林 邦雄、嶋原 澄枝
設計:
川島鈴鹿建築計画 一級建築士事務所
施工:
西村建設株式会社
所在地:
東京都中央区
主要用途:
専用住宅(2世帯住宅)
構造:
鉄筋コンクリート造
階数:
地上4階
竣工:
2013年1月
撮影:
鳥村 鋼一
設計趣旨:
「つながない住宅」と「むすぶ場所」
この計画は大規模再開発、超高層マンションと長屋、路地裏が併存する東京・月島の2世帯住宅。それぞれが独立した家族となった2世帯の関係は成熟しつつも、自律的。だから、それぞれの世帯を「つながない住宅」とした。
それぞれの世帯が建築的に独立していても、双方の密接な関係は揺るがず確実にある。むしろ、分けられてこそ継続する良好な関係。その絶妙な均衡を保つため、2世帯が会いたいときに、話したいときに気ままに集まるための「むすぶ場所」を親世帯と子世帯個室の中心につくった。「板間」と「広間」と「土間」。ちょっと懐かしい場所で路地裏の井戸端に迷い込んだような場所。
いつもは子世帯の家族室であるこの場所を訪れるのは親ばかりでなく、友人、隣人、世帯を問わぬ多くの人を迎える場所でありたい。それには回遊性をもった「板間」と「広間」と「通り土間」とが都合よい。なにより、ここには月島のふたつの象徴、北に超高層マンション、南に路地景観がある。だから、そこには「月島」があって、豊かで、魅力的で、落ち着いて、みんなを「むすぶ場所」となる。
(川島 茂、鈴鹿 美穂)
川島 茂(かわしま・しげる)右
1965年 京都府生まれ/1992年 日本大学大学院修了/現在、川島鈴鹿建築計画 共同主宰
鈴鹿 美穂(すずか・みほ)左
1966年 神奈川県生まれ/1989年 東京家政学院大学卒業/現在、川島鈴鹿建築計画共同主宰
東京建築賞・第41回建築作品コンクール選考評:
中央区月島は昔ながらの下町の住居が未だ軒を連ねている一方、高層マンションが林立し、路地空間も次々と新たな住居へと変貌している。
木造密集地域の改善のため、その変化を促進するような地区計画が定められ、容積率と道路斜線が緩和されて高さ約12mの住居や店舗の建築が可能となった。
この住宅も古くからこの場所に住み続けた建主が2世帯住宅として建設した。低層に両親の居室、上層に子世帯の居室という構成は通常のパターンだが、その内部に「通り土間」と呼ぶ階段と吹き抜けで構成される立体的な空間を展開し、土間と広縁に似た居室・リビングを接続させて昔の長屋を想起させる特徴ある住居をかたちづくっている。
この魅力的なスペースが両親との交流の場ともなり、また、多勢の来客をもてなす場ともなっている。コンクリートとスチールと木材によって仕上げられた内部空間は吹き抜けと計算された採光によって端整な佇まいを見せている。
間口約5mの敷地を若干セットバックさせて背後の路地を生かす工夫や、コンパネを使ったコンクリート打ち放しの外壁が存在感を高めている。内外を問わずコンクリートの施工精度の高さや、居住する建築主の建築に対する理解の高さが一体となって品質の高い住居を実現させている。
(岡本 賢)
岡本 賢(おかもと・まさる)
建築家、(一社)日本建築美術協会会長
1939年東京都生まれ/1964年 名古屋工業大学建築学科卒業後、株式会社久米建築事務所(現・株式会社久米設計)/1999年 同代表取締役社長/2006年 社団法人東京都建築士事務所協会副会長/2014年 一般社団法人日本建築美術協会会長