安部邸
設計|針谷將史建築設計事務所
第50回東京建築賞|戸建住宅部門 最優秀賞
中庭北方向を見る。
  • 中庭北方向を見る。
  • 南東側からの俯瞰。
  • 1階リビング2。
  • 1階平面図
  • 2階平面図
  • 断面図
  • アクソメ
建築主:
個人
表彰建築士
事務所:
一級建築士事務所針谷將史建築設計事務所
施工:
株式会社まつもとコーポレーション
所在地:
埼玉県さいたま市
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
S造
階数:
地上2階
敷地面積:
293.92㎡
建築面積:
104.50㎡
延床面積:
190.35㎡
竣工:
2022年12月
撮影:
西川 公朗
設計趣旨:
 家そのものが、家族のための公共空間にはなり得るだろうか。
 空間と構造の新しい関係性から、家の公共性について考えてみたい。
 この計画は都心でも郊外でもない住宅地に建つ、6人の家族の暮らす家。家族とは、強い結びつきがありながらも、それぞれが自立した個人の集まりである。そのような個人同士の関係を尊重し、親密な距離と個人の距離が同時に存在する空間を構想した。
 複数の小さな中心と周縁が、構造体によってぐるりとひとつに連なる。ここでは自律する構造体は「もうひとりの他者」となり、永続的な中庭と共に、家族との間を取り持つ。その全体像は異なる複数のパースペクティブの集積によって知覚され、一義的な解釈に留まらない、多様な領域認識を得ることで、各々が自由に過ごせる環境が生まれる。生活のための器であることを超えて、人と建築が対等な関係を築けたとき、家は家族の公共空間になる。
(針谷 將史)
針谷 將史(はりがい・まさふみ)
針谷將史建築設計事務所
1980年 栃木県生まれ/2004年 横浜国立大学工学部建設学科卒業/2007年 横浜国立大学大学院工学府社会システム学専攻建築学コース修了/2007~14年 隈研吾建築都市設計事務所/2014年 針谷將史建築設計事務所設立/2014~16年 横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手/現在、関東学院大学、日本女子大学、武蔵野美術大学、静岡理工科大学非常勤講師
選考評:
 幹線道路に程近くロードサイドの店舗や事務所、駐車場などが混在する雑然とした周辺環境に呼応させるように、大小の箱を数珠つなぎに集合させてできたコートハウスである。中へ入ると親戚の子どもも含め沢山の子どもたちが思い思いに過ごしていた。学校が終わると友だちも集まってくるのがこの家の日常だという。
 建物は8本の柱からなる鉄骨ラーメンフレームを円環状に閉じてすべての水平力を負担させ、そこに構造から開放されたカーテンウォールの大小の箱がとりついている。外壁下地の間柱を真壁納まりとして薄く軽やかに仕上げることで、壁がつくる境界が溶け出し不思議なほどの開放感を感じる。構造柱の本数と径は相関関係にあり、φ213mmの8本とすることが選択されている。
 子どもたちが柱に手を回して走り回り、まるで遊具のように寄り添って集まっている様からもその選択は正解だと感じる。多くの子どもたちが違和感なく思い思いの時間を過ごすこの空間に身を置いて感じられるのは、まさに設計者が意図した家の公共性そのものであった。それを子どもたちが見事に体現している。設計者の優れた洞察力とスタディの繰り返しによってできたこの建築は最優秀賞に相応しい素晴らしい作品であった。
(石井 秀樹)
石井 秀樹(いしい・ひでき)
建築家、石井秀樹建築設計事務所株式会社代表取締役
1971年 千葉県生まれ/1995年 東京理科大学理工学部建築学科 卒業/1997年 東京理科大学大学院理工学研究科建築学科修了/1997年 architect team archum 設立/2001年 石井秀樹建築設計事務所へ改組/2012年~一般社団法人 建築家住宅の会 理事