歳吉屋–BYAKU Narai–
設計|竹中工務店
第50回東京建築賞|リノベーション賞、一般部門一類 最優秀賞
保存された旧中山道側外観夕景。伝統的な縦格子の外観*。
  • 保存された旧中山道側外観夕景。伝統的な縦格子の外観*。
  • 旧中山道奈良井宿のまちなみ*。
  • レストランのメイン客席**。
  • 旧中山道に面する2階客室(百二)**。
  • 全体平面図
建築主:
株式会社ソルトターミナル
一般社団法人塩尻市森林公社
表彰建築士
事務所:
株式会社竹中工務店東京一級建築士事務所
施工:
北信土建株式会社
所在地:
長野県塩尻市奈良井551
主要用途:
旅館、工場
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
840.61㎡(母家)/975.76㎡(酒造)
建築面積:
399.05㎡(母屋)/619.32㎡(酒造)
延床面積:
538.16㎡(母家)/644.55㎡(酒造)
竣工:
2021年7月
撮影:
*ロココプロデュース/林 広明、**ワンストーリー
設計趣旨:
 長野県奈良井宿、旧中山道沿い6間の大きな間口を持つ「(旧)杉の森酒造」は1793(寛政5)年に創業し、2012(平成24)年惜しまれつつ休業した。まちのシンボルとして親しまれた母家と家財蔵は重要伝統的建造物に登録されている。「歳吉屋–BYAKU Narai–」は、これら築200年の建築を、旅館・温浴施設・レストランに転用し、奈良井宿の賑わいと酒造の再興を図る計画である。現地調査の中で得た明治時代の図面をもとに、江戸時代の商家の特徴的な間取りを参照し、「ハレ/ケ」、「ミセ/オク」として客室の空間デザインに昇華させた。遺すものと変えるものを分け、埋もれていた空間特性を再構成するなど、建築が紡いできた時間と記憶の再生を試みた。奈良井宿は年間60万人以上の観光客が訪れる一方、まちに住む若者は減り空家が増え続けている。歳吉屋を核として、周辺の空き地・空き家を魅力ある施設に更新していくなど、この場所ならではの面的な活動を「BYAKU Narai」として進めている。スタッフが住みながら働き、まちの担い手を増やし活力を生むことで、新たな居住者や店舗の招致など、まち全体へ活力が波及し、未来へとつながることを目指している。
(美島 康人)
美島 康人(みしま・やすひと)
竹中工務店東京本店設計部部長 総括担当
1965年 東京都生まれ/1989年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1991年 早稲田大学理工学部大学院修士課程修了後、竹中工務店入社
長谷川 裕馬(はせがわ・ゆうま)
竹中工務店東京本店設計部設計第5部門インテリア1グループ主任
1990年 愛知県名古屋市生まれ/2014年 法政大学デザイン工学部建築学科卒業/2016年 法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程修了後、竹中工務店入社
吉本 晃一朗(よしもと・こういちろう)
竹中工務店東京本店設計部設計第2部門設計2グループ主任
1984年 埼玉県生まれ/2007年 法政大学理工学部建築学科卒業/2009年 慶応義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了後、竹中工務店入社
選考評:
 国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、400年の歴史を誇る中⼭道の宿場町、奈良井宿における築200年の伝統的建造物「旧杉の森酒造」と「旧豊飯豊衣民宿」の改修プロジェクトである。設計・施工者が長野県塩尻市と締結した持続可能な社会づくりや地域課題の解決に寄与・貢献することを目的とした連携協定に基づき、「歴史的建物資源や文化資源の活用等に関すること」を実現に向けた取り組みとなっている。酒づくり事業を継承・再興するとともに、宿泊施設、レストラン、酒蔵、バー、温浴施設、ギャラリーの6業態で構成された⼩規模複合施設として再生された。外観の保存規制があるなか、耐震性能、防火性能、床断熱と床暖房による温熱環境性能を向上させながら、既存棟のそれぞれの特徴を活かして、遺すものと変えるものを峻別し、全室異なるアクセスを持つ個性的な宿泊室としたほか、それらをつなぐ路地空間などにも工夫を凝らし、ここでの滞在や食事の体験が、単なる旅行者としてのものでなく、非日常的で趣のある生活体験となるよう、素材やディテールにも入念な配慮がなされた傑作である。
(伊香賀 俊治)
伊香賀 俊治(いかが・としはる)
慶應義塾大学名誉教授
1959年生まれ/早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了/(株)日建設計 環境計画室長、東京大学助教授、慶應義塾大学教授を経て、2024年より名誉教授/専門分野は建築・都市環境工学/博士(工学)/日本学術会議連携会員、日本建築学会副会長(2020〜21年)