扇屋旅館
SALHAUS、6D、+i design
第40回建築作品コンクール 一般部門一類最優秀賞
施工:
増田建設(株)
建築主:
扇屋旅館(平間 保智)
所在地:
新潟県村上市
主要用途:
旅館+オーナー住宅
構造:
木造
設計趣旨:
80年以上に渡り増改築を繰り返してきた駅前旅館の再生計画。オーナー住居の新築を契機に、耐震補強を含む全面改修を行った。
着目したのは既存の中庭である。閉ざされていた中庭を減築により街に聞き、中庭を核に旅館・住宅の諸機能と、雑多な建築群を再編した。改修にあたっては既存部分と改修・新築部分を対比的に扱うのではなく、全体に緩やかな統一感を与えるよう心掛けた。新設した庇により中庭には明確な輪郭を与えたが、その他の部位は場所ごとに既存の状況を生かしながら設計することで、新築では得られない多様性をもつ建築となった。中庭と諸室の聞には庇とデツキで緩衝領域を設けた上、ルーバーや建具で相互の距離感を調整し、多様な人々が居心地よく共存できる状
態をつくり出している。観光客、宿泊客、地域住民に聞かれた新しい公共的空間である。
全国どこの地方都市にもある駅前旅館という既存ストックの再生を、地域活性化に繋げる試みである。
(安原幹/SALHAUS)
審査評:
地方都市の駅前旅館における、オーナー住宅の新築を契機とした既存の建物群の再編としてのリノベーション、図面おこしにはじまり、新築住宅を成立させるための考察、耐震改修も含め年代と建て主の異なる既存建物のどこを解体し、何をつけくわえるかのスタディ、隠蔽部分の構成を解体により確認しながらの決定プロセスなど、設計者の能力の高さと注がれた多大なエネルギーが伝わってくる計画である。
複数の建物に囲まれた中庭を、オーナー住宅のテラスや旅館の通路から見渡すと、各建物がそれぞれの機能を果たすべく独自に建っているようでいて、ある雰囲気にまもられた安堵感を覚える。これらはリノベーションにて導入された中庭、庇と外構造作、各部位の状況と求められる機能に即した丁寧な改修に拠ると想像される。内外の意匠には、言葉は悪いが場当たり的な感じを覚える部分もあるのだが、中庭を巡る空間ではそうした統一感の足りなさによって逆に自然な雰囲気が醸し出されている。それはまるで多くの人の営みの末に自然にできあがった、無作為の作為、居心地のよいまち空間のようにも感じられた。宿泊や宴会の客人、ここを訪れる多くの人々に馴染みの感じを覚えさせ、何気なくできごとを眺めたり、時間をすごすことを許容する「開かれた」空間となっている。長きに渡る旅館の営みの中で建物が内包してきた雰囲気が途切れさせられることなく、むしろリノベーションによって中庭空間に解き放たれることで、新たな空間価値が創出されていると感じた。
プロジェクトは、地域の人々によく利用されてきたという宴会仕出し業務を継続したまま進められたという。利用の時空間という流れを途絶えさせることなく新たな視点を切り開いた再構成という観点からも、設計者の力量は大変高く評価され、最優秀作品とされた。
(國分 昭子/(株)IKDS・共同代表)