分類体系の歴史
BIMの普及に伴って分類体系システム(Classification System)への注目が以前よりも高まっています。BIMの情報を効率よく扱うために分類体系が有用であるという認識がグローバルに広まりつつあるのでしょう。そもそも、分類なくして効率的なマネジメントはできませんので、建物の規模が大きく機能が複雑になるほど、分類体系の必要性が増していくのも不思議ではありません。今日では、主要なBIMオーサリングツールで複数の分類体系を自在に付与できるアドオンが提供されています。分類体系自体はさほど新しいものではありません。主だったところを見ても、世界で最初の分類体系とされるスウェーデン発祥のSfB分類は1948年、日本でもよく知られている米国の工種分類であるMasterFormat®の前身であるCSI Format for Construction Specificationsは1963年、同じく米国で原価分析用の分類体系として用いられるUniFormat™の前身であるMASTERCOSTは1973年、英国の工種分類であるCAWSは1987年に、初版が公表されています。欧米の建設業は、これらの分類体系の改版や改編を重ね、自国の建設産業に共通の情報共有基盤として利用し続けています。
それらの国の建設産業が分類体系を重宝している理由は単純で、それを使うと色々と便利なことがあるからです。特に、分類体系と建設仕様には深い関係があります。
米国や英国はプロジェクトごとに建設仕様書を編纂して契約書とするため、それを効率的に作成する仕組みとして分類体系が発展してきました。米国の大学院では各部構法やその仕様を学ぶ際にMasterFormat®の分類体系をあわせて修得するそうです。また、デンマークで聞いた話では、異なるBIMオーサリングツールや関連ソフトウエア間でデータをやり取りする際にオブジェクトの属性を効率よく定義するために分類体系を再整備したとのことです。各国の事情によって分類体系へのニーズは異なっています。
建設分類体系の国際規格であるISO 12006-2は、初版が2001年に制定され、2015年にBIMに対応した改訂が行われました。この国際規格との整合を図るべく、米国ではMasterFormat®やUniFormat™など既存の分類体系を組み入れたOmniClass®、英国ではBIMによる建設プロセスとの整合を強烈に意識したUniclass2015へと自国の分類体系を再整理しています。本稿では、筆者がこの数年に分類体系について勉強したことを中心に、個人的な解釈も入れつつ、BIMと分類体系の関係について概説いたします。
分類体系は何を分類するのか
欧米の建設業で扱われる分類体系は、英数字で表記され4段階程度の階層をもつ構造となっています。その最下層は建物を構成する部品の種類の分類で、部品を構成する材料の仕様(サイズや特性など)は含みません。たとえば間仕切壁は、UniFormat™が「C1010.10:Interior Fixed Partitions(内装の開口がない間仕切壁)」、MasterFormat®が「09 21 16.33:Gypsum Board Area Separation Wall Assemblies(空間を分ける石膏ボードの壁のアセンブリ)」、Uniclass2015が「Ss_25_25_45_35:Gypsum board wall lining systems(石膏ボードで覆う壁システム)」と分類されています。その分類には、石膏ボードを張る枚数やボードの厚さ、張り方、耐水性の有無、骨組みの材料やサイズなどは含まれていません。
これらの「仕様」は、マスター書式を利用して設計の進捗に合わせて段階的に記述をしていきます。したがって、BIMオブジェクトに分類体系の番号を入力するだけでは、自動で概算や積算ができません。概算や積算をするには仕様がある程度記述されていなければならないからです。ただし、建築を構成する部品の代表単価(使用頻度の高い仕様を決め打ちしてその合成単価を算出したもの)を分類体系の番号と対応付けて整理しておけば、分類体系の番号をキーとして概算やコスト計画を効率的におこなうことができると思います。
欧米では、仕様を規格化する協会や企業、製品製造者、設計事務所などが、構法、工法、製品など各種の仕様のひな形を共通化された書式で提供しています。このひな形を本稿では「マスター書式」と呼ぶことにします。
設計者は、インターネットやDVDに収録されたマスター書式を探し出し、特記部分の穴埋めや標準外の事項の追記などをして部品や各部の仕様を定義します。最終的に膨大な数となる各仕様を集積し、建設仕様書として編纂し、発注者が工事契約書として用います。分類体系の番号は、マスター書式にも付与されていて、その検索や建設仕様書の内訳として用いられます。また、基本計画段階の概算やコスト計画の内訳にも分類体系が利用されているようです。
仕様や概算などの内訳は、関係者の関心事によって多様です。発注者は部分別の内訳、設計者は工種別の内訳、エンジニアは部品別の内訳を利用したいと思っているかもしれません。それならば、ひとつのオブジェクトに複数の分類体系を付与すればよいというのが、ISO 12006-2の考え方です。
ひとつの対象物を多面的に分類する仕組みを「ファセット型分類:Faceted Classification」と呼びます。ISO 12006-2は、建設に関わる情報をファセット型で分類するフレームワークの国際規格です。しかし、「多面的に分類」と聞いてもピンとくる方は少ないのではないかと思います。
ファセット型分類とは
以下に米国のOmniClass®を例にしてファセット型分類の説明をします。OmniClass®は米国とカナダの建設仕様書協会であるCSI(Construction Specifications Institute)とCSC(Construction Specifications Canada)が整備した分類システムで、部屋の名称や工種など16種のテーブルで構成されています。その中から、Table 21–Elements (UniFormat™)、Table 22–Work Results(≒MasterFormat®)、Table 23–Productsという3つのテーブルを用いて「直方体」を分類した例が図1です。
「Table 21」は部分別概算の視点で構法を分類する体系です。図1では、「地上の構造物 > 構造躯体 > 一般階 > 一般階の構造架構」の番号(21-02 10 10 10 Floor Structural Frame)を記述しました。
「Table 22」は工事仕様を分類する体系です。図1では、大分類にコンクリート(22-03 00 00 Concrete)をあてがい、その下にコンクリートの施工に必要な3つの工事を併記しました。ひとつ目は「型枠 > 構造用現場打ちコンクリート型枠」(22-03 11 13 Structural Cast-in-Place Concrete Forming)。ふたつ目は「鉄筋 > 一般鋼の鉄筋」(22-03 21 11 Plain Steel Reinforcement Bars)。3つ目は「構造コンクリート > 重量構造コンクリート」(22-03 31 13 Heavyweight Structural Concrete)です。
「Table23」は建築部品を分類する体系で、「フレームの部品 > 構造フレーム > 柱・床・フレーム > 柱」(23-13 35 11 13 11 Column)を記述しました。
図1の直方体は、構造柱であると同時に、地上躯体の構造架構であり、現場打ち鉄筋コンクリートでもあります。構造柱の情報を「構法」、「工種」、「部位」のどの視点で扱うのかによって利用する分類体系が異なるわけです。もちろん、それらをつなげて一連の番号とすることもできます。確かに、UniFormat™の現行版「UniFormat™ 2010」には、UniFormat™の最下層(第4階層)に直結するMasterFormat®の項目がリストアップされています。しかし、人間が一度に覚えられる文字の数は平均7つといわれていることもありますので、あまり桁数が多くなりすぎては、その番号の管理や利用に無理が生じてしまいます。だからこそ、用途や利用者によって分類体系を分けるファセット型が指向されているのだと思います。
複数の分類体系を併用することの効用
たとえば、BIMオーサリングツールですべてのオブジェクトにMasterFormat®とUniFormat™の番号を両方とも入れておけば、工種別内訳と部分別内訳の概算で別々に数量を集計する必要がなくなります。また、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、MasterFormat®とUniFormat™ のマトリクスを用いたコスト分析の可能性を示唆しています。筆者が米国の仕様書記述の専門家(スペックライター)に聞いた話では、UniFormat™で各部の仕様のアウトラインを書き、MasterFormat®で工事仕様を記述するというやり方を模索しているそうです。しかし、MasterFormat®やUniFormat™は、体系の最下層が「工事」であったり「部分」であったりしますので、「建築部品」を特定することができません。BIMによる設計では、BIMオブジェクトのカテゴリやタイプに対応する分類体系があると便利です。たとえば、プレファブリケーションされる建築部品は、BIMオブジェクトの単位で仕様やコストを検討するのが設計者だけでなく製造者の立場から見ても合理的です。そのような用途を意識した分類体系を含む分類体系システムが、英国のUniclass2015です。
Uniclass2015
Uniclass2015は、従来使われていた分類体系であるUniclass2を、BIMに合わせて再編するために英国政府が実施した改編コンペを通じて生まれました。このコンペを制したのは、王立英国建築家協会(Royal Institute of British Architects:RIBA)の配下にあった建設仕様書の販売を生業としているNBSです。Uniclass2015は、12のテーブルを持つファセット型ですが、各テーブルはRIBAが提示するPlan of Workのステージに関連付けて整備されています。その特徴は、①設計から施工に至る各段階を想定した7つのテーブル(分類のクラス)を有していること、②BIMオブジェクトに対応する分類体系のテーブルを設けたこと、③建物の部位や機能、それを構成するシステムのテーブルの間で分類番号の統一性を確保して、それらのテーブル間に階層性を持たせていることです。
これらの7つのテーブルは、計画段階と設計段階で2段階の使い分けが想定されています。
図2におけるA部分の4つのテーブルは設計要求条件の検討に利用されるテーブルです。「Co:Complexes」は施設全体、「En:Entities」は建物、「SL:Spaces/locations」は空間や部屋、「Ac:Activities」はそれらの中で行う活動の分類です。基本計画段階まではこれら4つの分類体系を相互補完的に利用して空間の仕様を記述していきます。
B部分を構成する3つのテーブルは、建物を部分から部品、製品に分解していく過程を表した階層的な関係になっています。「En:Entities」から派生する「EF:Elements/Functions」は建物の構成要素の分類で、それらを具体なコンポーネントに展開する「Ss:Systems」と階層関係にあります。「Ss:Systems」は部品の分類である「Pr:Products」の集合という位置づけです。NBSが提示しているDigital Plan of Workの各ステージで利用が想定されているテーブルが表1のように整理されています。
「EF:Elements/functions」と「Ss:Systems」は、第1階層や第2階層までの番号を共通化しています。たとえば構造体に関する項目は「20番台」で、構造要素(EF_20:Structural elements)、構造システム(Ss_20:Structural systems)となっています。上位階層の仕分け番号をテーブル間で共通化することで、テーブル間に階層を持たせることができます。この階層化により、部位(EF:Elements/Functions)に要求される性能とそれを解決するシステム(Ss:Systems)の仕様との関係をBIMオブジェクトに関連付けて明示することができます。
「Ss:Systems」の概念は若干わかりにくいですが、BIMオブジェクトに対応するテーブルとして導入されました。たとえば構造柱は、「構造システム > 構造柱 > 構造柱システム > コンクリート柱システム」(Ss_20_30_75_15:Concrete column systems)と分類され、最下層はBIMオブジェクトの「鉄筋コンクリートの構造柱」に対応します。そしてその柱を構成する材料は、「Pr:Products」の中にある、配合指定のコンクリート(Pr_20_31_16_21:Designated concrete)と鋼材の異形鉄筋(Pr_20_96_71_14:Carbon steel ribbed bar reinforcement)となります。なお、現場打ちでコンクリートを成型するための型枠は、道具の分類体系である「TE:Tool and Equipment」に型枠パネル(TE_10_10_20_31:Formwork panels)として分類されています。また、NBSは「Ss:Systems」の番号に対応する仕様のマスター書式を用意しています。設計者はそのマスター書式に各システムの特記を記述するだけでなく、システムを構成する「Pr:Products」を追記したり、その仕様を記述したりします。NBSは、2019年にクラウドでマスター書式に仕様を記述するシステムとそれをBIMオブジェクトにリンクするツール、2020年に項目が共通化された仕様が表記された製品のWebカタログのソリューションを開始しています。そしてこれらすべてのサービスにUniclass2015の番号が使われています。
日本における分類体系の状況
日本にもいくつかの分類体系が存在します。しかし、分類体系相互の関連が整備されておらず、特定のサービス用に特化していたり、番号の付け方にエルゴノミクス的な観点が配慮されていなかったりするためか、プロジェクトの情報基盤として広く利用されるに至っていません。そこで、国土交通省建築BIM推進会議の部会4としてBIMによる積算の標準化を担う「BIMを活用した積算・コストマネジメントの環境整備」協議会の母体である日本建築積算協会の情報委員会では、Uniclass2015を基盤とした分類体系の整備を行っています。この検討では、BIMを利用するプロジェクトでUniclass2015をキーに概算するシーンを想定し、各テーブルの日本語訳、不足項目の洗い出し、企画(S0)・基本計画(S3)・基本設計(S2)の概算に最低限必要となる仕様の整理に着手しています。
この検討が進むと、BIMで分類体系を利用したコストマネジメントの骨格が見えてきます。さらに、公共建築工事標準仕様書の章立てや公共建築工事内訳書標準書式の科目階層を参考にした工種分類体系を検討することで、BIMと連携した工事仕様書や積算など業務のデジタル化に対する情報基盤を整理することができます。その中では、工業化部品などの新しい技術を柔軟に追加して設計で採用しやすくできるように「標準仕様書」のあり方も再検討されていかざるを得ないでしょう。
分類体系は、「たかが分類、されど分類」で、建設産業の働き方改革の最優先課題である業務のデジタル化とプレファブリケーションの推進に大きな関わりがあるのです。
志手 一哉(しで・かずや)
芝浦工業大学教授
1971年生まれ/1992年 国立豊田工業高等専門学校建築学科卒業/2009年 芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科専門職学位課程修了、博士(工学)/1992年に株式会社竹中工務店入社/2014年 芝浦工業大学准教授着任を経て、2017年4月より現職/共同執筆に『ファシリティマネジャーのためのBIM活用ガイドライン』公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会、2019年、『建築ものづくり論- Architecture as "Architecture"』有斐閣、2015年など
1971年生まれ/1992年 国立豊田工業高等専門学校建築学科卒業/2009年 芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科専門職学位課程修了、博士(工学)/1992年に株式会社竹中工務店入社/2014年 芝浦工業大学准教授着任を経て、2017年4月より現職/共同執筆に『ファシリティマネジャーのためのBIM活用ガイドライン』公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会、2019年、『建築ものづくり論- Architecture as "Architecture"』有斐閣、2015年など