空き家の適正管理・有効活用を考える2
練馬区主催 空き家所有者向けセミナー|平成30(2018)年3月11日@練馬区役所
野瀬 有紀子(東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員会、練馬支部、女性のための住まい相談室/のせ一級建築士事務所)
会場風景。練馬区環境課樋口係長の講演。
練馬区の空き家対策①。協定締結団体等の一覧。
 平成30(2018)年3月11日(日)14:00〜16:00に、練馬区役所アトリウム地下の多目的会議室において、練馬区の主催による「空き家所有者向けセミナー」が開催された。対象を、区内に空き家を所有、または空き家を所有する予定がある方とし、19名の参加者が来場。
 本誌5月号では、「練馬区の空き家対策の概要」と、「建築士が受け持つ空き家問題のアドバイスについて田中正裕支部長による講演」について記事にした。本号では、建築士にとっても興味深い、袴田英宏東京司法書士会練馬支部長の講演内容と後半に行われ個別相談会の様子をレポートする。
 本誌5月号でも記したように、平成27(2015)年5月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空家法」)が全面施行され、練馬区は、平成29(2017)年2月に「練馬区空き家等対策計画」を策定、同年7月に「練馬区空家等および不良居住建築物等の適正管理に関する条例」を制定した。練馬区空き家等対策計画は、空家法第6条の規程に基づき策定され、空き家の発生予防、適正管理と有効活用の促進、所有者への指導強化などの対策について定めたものである。
 このセミナーは空き家の発生予防に関連した啓発事業で、前半の講演会と後半の相談会による二部構成で実施された。平成27年度からスタートし今回が4回目の開催。
 その中で本会練馬支部の田中正裕支部長の講演があり、他に練馬区と協定を締結した団体である東京司法書士会、東京都行政書士会練馬支部、公益社団法人東京都宅地建物取引業協会練馬区支部、公益社団法人全日本不動産協会東京都本部練馬支部の方々が出席し、それぞれ参加者の相談などに応じた。
講演する袴田英宏東京司法書士会練馬支部長。
『司法書士アクセスブック 放っておけない空き家の話』(日本司法書士会連合会刊)表紙。
『司法書士アクセスブック 放っておけない空き家の話』(日本司法書士会連合会刊)目次。
空き家問題、所有者不明土地問題と不動産登記について
袴田英宏東京司法書士会練馬支部長の講演(概要)
 空き家(不動産)の所有者が誰なのかはっきりしないと、空き家の問題も先に進まないだろう。売るとか、建築するとか、何か計画する前に、まず不動産と人を結びつけないと解決できない。その部分で、司法書士は空き家問題について手伝うことができる。司法書士は、不動産登記の専門家である。
 空き家問題より大きな問題になるのではないかと報道等で騒がれている所有者不明土地問題についてもお話しする。所有者が不明という問題が起きるのは、現在の不動産登記に問題があるからなのだろう。不動産相続登記の未了が問題なのではないかと考える。
 空家法制定後、区の調査では、固定資産税の課税に利用する目的で都が保有する情報が扱えるようになって、所有者の特定が進んでいるようだが、われわれ民間や個人では、そこまで踏み込んで調べることができない。
1. 空き家問題、所有者不明土地問題の入り口としての不動産登記
【不動産登記簿、登記事項証明書、所有者調査、共有私道】
不動産登記簿について説明する。表題部、権利部(甲区、乙区)等。
 表題部は、土地家屋調査士が仕事を行う部分で、この届出、申請については義務があるが、権利部は登記申請の義務がない。住宅ローン等を組めば、銀行が申請しないことはないが、基本的には義務がない。
 東日本大震災のとき、相続の登記が何代に渡ってもなされていないので、現在の所有者が誰であるかわからないという問題が顕在化した。登記簿の権利部にある所有者欄には、住所と氏名しか載らないので、登記簿から戸籍にはなかなかたどり着けない。登記簿には所有者の生年月日も記載がない。一方、戸籍には、本籍や氏名は載っているが、住所が載っておらず、すぐにそれらを結び付けることは難しく、所有者にすぐにはたどりつけない。その結びつけの仕事を日ごろの業務の中で行うことが多い。登記簿の情報だけでは、現状では所有者の特定に限界がある。今後はマイナンバーと結びつけていこうという動きもあるようだ。
 その他には、たとえば私道の所有者は、複数、多数になっていることが多い。何かするにも所有者全員の合意がないとできない。私道の分の登記が漏れてことも多い。そのほかたとえば、固定資産税がかからないもの、ごみ置き場を持っているが、その分だけ登記がもれているというようなこともある。
2. 司法書士が支援する空き家対策
 『司法書士アクセスブック 放っておけない空き家の話』(日本司法書士会連合会刊)では、簡単にわかりやすく司法書士のできること、仕事について説明している。「コンパクトにまとまっていて、よい冊子」とよくいわれる。冊子にも記載のある以下のような仕事を請けることができる。
・相続登記、相続人の調査、遺産分割協議書の作成
・成年後見等開始申立、成年後見人等への就任
・相続財産管理人選任申立、不在者財産管理人選任申立
3. 事例紹介
【相続人多数】
 相続登記が義務でないため、相続登記がなされていない状態で、また、相続が発生してしまって、相続が重なっているケースがあった。亡くなっている人も含めて関係者が24人、そのうち権利がある人が10人、相続の権利がある人にやっとたどりついても、その方が、ご病気で亡くなる寸前や認知症で話しがまとまらないということがあった。相続人に未成年者がいると、その人の親に出てきてもらわないといけない。相続の権利のある人の中に、外国人、外国籍の方がいるケースもある。会社の名義が入っている、その会社が今、存在するのか、登記されているのかどうかもよくわからないことも。
 最近では、反対に相続人少数というケースも多い。少子化の影響か?
【成年後見人】
 誰も住まなくなった空き家を、認知症や老人介護施設に入所されている方の成年後見人として管理することもある。就任中に家や別荘の売却や賃貸などの手続きをすることもある。
【財産管理人選任申立】
 成年後見人として仕事をしていて被後見人の方が亡くなられると、相続人に引き継ぐのであるか、その相続人がみつからない、いない、というケースがある。引継ぐ相続人等がいずに、私自身が利害関係人として相続財産管理人選任申立をしたこともある。

 日ごろ、空き家の予防、空き家事態の解消にかまえて携わっているのではないが、仕事を振り返ってみると、空き家の予防や解消に携わっていることに気がつく。
練馬支部の相談コーナーでの個別相談風景。
講演の後、個別相談会を実施
 団体別に相談テーブルを設置し、相続、売買、賃貸、改修等の空き家に関する相談、公益目的で活用したい方等の相談に応じた。
 田中練馬支部長の平易な、解りやすい説明、講演の後(5月号参照)とあって、練馬支部の相談コーナーには3組の相談者。おひとりでいらした方、ご家族3人でいらした方と相談者もさまざま。空き家対策について関心の高さを感じた。田中支部長と平子隆一副支部長のふたりで時間いっぱい対応した。
 なお、空き家対策セミナー前半は、まず、練馬区環境部環境課まち美化推進係樋口係長より、練馬区の空き家対策の概要について説明があり、その後、本会練馬支部田中支部長による講演が行われた。詳細は、5月号を参照されたい。
野瀬 有紀子(のせ・ゆきこ)
東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員会・練馬支部、女性のための住まい相談室/のせ一級建築士事務所
女子美術大学卒業/木造戸建住宅の設計に長く携わる
https://www.nose-architect.com/
カテゴリー:支部 / ブロック情報
タグ:空き家