第44回東京建築賞総評
栗生 明(東京建築賞選考委員会委員長、栗生総合計画事務所)
 東京建築賞は今年、44回目を迎えました。
 募集期間を約1カ月繰り上げた影響もあり、応募総数は31作品に留まり、例年に比べいくらか少数となりました。
 しかし、実際に現地審査にあたった作品は、どれも質が高く、見ごたえがあるものばかりでした。

 第一次審査は写真、図面、説明書類などによる机上の審査です。
 現地審査によってしか理解できそうもない作品を、この段階で見落とさぬように配慮し、戸建住宅部門で5作品、共同住宅部門で4作品、一般一類部門で6作品、一般二類部門で7作品の、計22作品を現地審査対象として選考しました。

 第二次審査では、部門ごとに、現地審査にあたった選考委員の意見を尊重しつつ、さまざまな角度から丁寧な議論をし、すべての部門で最優秀賞、優秀賞、奨励賞を仮決めしました。
 まずはこの中から、東京都知事賞と東京建築士事務所協会会長賞を選定し、その上で各賞を再調整することにしました。

 東京都知事賞は、選考基準として東京都内に建てられ、防災、福祉、都市景観などの見地から都民生活の向上を図り、特に秩序ある都市の建設に貢献し、併せて地域環境の維持向上に寄与したと認められる作品であることが求められています。
 この基準に合致した最も優れた作品として「YKK80ビル」が選ばれました。  通りに面したレースのカーテンのような繊細なファサードは、地域の品格を高める一方、透明で、開放的なエントランスまわりのヒューマンスケールは、都市の公共性に大きく寄与しています。
 省エネルギー性能と快適性を実現した高度な環境コントロール技術など、クリーンビルディングの開発モデルを示した建築としても評価されました。

 一方、東京建築士事務所協会会長賞は「新発田市新庁舎」が選ばれました。
 プロポーザルコンペ時に提案された「札の辻市民広場」は、魅力的な公共空間として実現しています。
 都市に対して2方向で開放され、多様な使い方を許容するこの大空間は、本来の行政機能に加えての市民の「快適な居場所」として構築されています。
 構造、設備、環境、デザインともに挑戦的な取り組みが随所に見られ、周到に計画された「しきり方」や備品の設定は、多様な使われ方を想定したものであり、東京建築士事務所協会会長賞に相応しい設計密度の秀作でした。

 現地審査にあたり、見究めるべき建築評価基準は大きく3つあるように思います。
 「佇まいが良いかどうか」、「顔つきが良いかどうか」、「居心地が良いかどうか」の3つです。
 実はこれらは現地に行って、実際にその建築を体験しなければ、なかなかわからないものです。
 まず「佇まいが良いかどうか」は、周辺環境との関係によって決まります。
 「あたかも以前から、そこにあったかのような安定感がある」、「周辺環境に馴染みながらも、固有性が発揮されている」あるいは「その建築を取り巻く周辺環境全体が一体的なものとして活性化されている」などです。
 このように、周辺環境との対話が十分なされた建築は、「佇まいの良い建築」として評価されます。
 ふたつ目は「顔つきが良いかどうか」です。
 全体の姿や形が美しいのはもちろんですが、その建築を特徴付ける「顔つき」は重要です。
人間でいえば「目力(めじから)がある」、「鼻筋が通っている」、「眉がりりしい」……。すべてではなくとも、一部分でもその建築を魅力あるものとして特徴付ける「顔つき」です。
その建築に相応しい「顔つき」は記憶に残る建築としての評価につながります。
 最後に「居心地が良いかどうか」です。
 公共建築においては「居心地の良さ」はその公共性と密接に関連しますし、一般の建築においても、利用者にとっての「居心地の良さ」はその建築の価値付けに大きくかかわってきます。ましてや、戸建住宅や共同住宅においての「住み心地の良さ」は必須の条件でしょう。
 住空間に見合った住まい手のライフスタイルや、住みこなし方の見事さに、驚かされた作品も多くありました。

 今回受賞された作品は、これら3つの評価基準において優れたものであり、深い感銘を受けたものばかりでした。
栗生 明(くりゅう・あきら)
建築家、栗生総合計画事務所代表取締役
1947年 千葉県生まれ/1973年 早稲田大学大学院修了後、槇総合計画事務所/1979年 Kアトリエ設立/1987年 栗生総合計画事務所に改称、現在、代表取締役/1989年「カーニバルショーケース」で新日本建築家協会新人賞、1996年「植村直己冒険館」で日本建築学会作品賞、2003年「平等院宝物館鳳翔館」で日本芸術院賞、2006年「国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館」で村野藤吾賞ほか、受賞多数
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