東京建築賞・第41回建築作品コンクール入選作品選考評
東京都知事賞
御茶ノ水ソラシティ
大成建設
 都市再生特区を利用した開発であるので、地下鉄新御茶ノ水駅や隣接する他の大型再開発プロジェクトとの連携による歩行者動線、および駅広場の確保といった公共機能の飛躍的向上は、当然期待される。
 それに対し、既存杭の活用、中間階免震、メガストラクチャーといった技術を組み合わせることで、地下鉄2路線をあえて跨ぎ建物を敷地の端に寄せて大きな空地を確保。地上地下共に都市的な広場として、稠密な環境を劇的に変革して見せているのは、総合建設業としての技術的裏付けによって初めて可能となった大胆な挑戦といえる。
 さらに地域の既存の記憶要素を丹念に保存、再構成し、落ち着いた外観デザインも含めて、巨大な開発を都市という生態系に馴染ませるべくできる限りの注意を払っている。
 私たちはともすると目新しい造形に気を取られるが、こうした圧倒的な技術力の組み合わせによる着実で精緻な都市機能の向上は、東京が世界レベルでの都市競争に伍していくために必須であり、高く評価したい。
選考委員:車戸 城二
 
戸建住宅部門|最優秀賞
西原の壁
SABAOARCH
 道路の中央分離帯に建てられたかと思わせるような戸建住宅である。敷地は幅が3mで細長い。最も私的な空間である住宅が最も公的な空間である道路に挟まれて建つなら、安全とプライバシー確保のため強固な壁で囲まれたた空間とならざるを得ない。設計者によって「壁」と名づけられたこの住宅は、その名の通り分厚いコンクリート壁で囲まれて道路中央に屹立している。日常的に人と車が行き交う空間の中に、剛強な壁を違和感なく立てることと、壁で囲まれた内部を明るく風通しのいい快適な居住空間にすることに、設計者の心血が注がれている。
 打ち放しコンクリートの型枠に用いられたスギ板の木目がくっきりと残る壁は、通りがかりの人が「木造か?」と見間違えるほど柔らかな表情を持っている。それだけなら他にも類例は少なくないが、その壁に凹凸をストライプ状につけた上に、形状が不定形なポツ窓を穿った壁は、コンクリート壁に柔らかな風合いを持たせている。そのために必要であった型枠の形状とコンクリート打設の苦労を考えれば、設計者自身が生コンを竹棒で突いて回ったという話も頷ける。
 建物両側の長い壁に点在するポツ窓と、短辺方向の高い壁に囲まれたテラスからの陽光と風が、外観からの想像を遙かに超えた快適な居住空間を生み出している。設計者の設計から施工までに向けた情熱が見事に結実した作品であり、最優秀賞にふさわしい建築と評価された。
選考委員:金田 勝徳
 
戸建住宅部門|優秀賞
T500CBM
川島鈴鹿建築計画
 中央区月島は昔ながらの下町の住居が未だ軒を連ねている一方、高層マンションが林立し、路地空間も次々と新たな住居へと変貌している。
 木造密集地域の改善のため、その変化を促進するような地区計画が定められ、容積率と道路斜線が緩和されて高さ約12mの住居や店舗の建築が可能となった。
 この住宅も古くからこの場所に住み続けた建主が2世帯住宅として建設した。低層に両親の居室、上層に子世帯の居室という構成は通常のパターンだが、その内部に「通り土間」と呼ぶ階段と吹き抜けで構成される立体的な空間を展開し、土間と広縁に似た居室・リビングを接続させて昔の長屋を想起させる特徴ある住居をかたちづくっている。
 この魅力的なスペースが両親との交流の場ともなり、また、多勢の来客をもてなす場ともなっている。コンクリートとスチールと木材によって仕上げられた内部空間は吹き抜けと計算された採光によって端整な佇まいを見せている。
 間口約5mの敷地を若干セットバックさせて背後の路地を生かす工夫や、コンパネを使ったコンクリート打ち放しの外壁が存在感を高めている。内外を問わずコンクリートの施工精度の高さや、居住する建築主の建築に対する理解の高さが一体となって品質の高い住居を実現させている。
選考委員:岡本 賢
 
戸建住宅部門|優秀賞
三輪さんの家
ニコ設計室
 杉並区にある住宅密集地の旗竿敷地に建つ住宅である。敷地は隅々までぎりぎりに利用され、南、東2面の栗や果樹の生産緑地の広がりと明るさを最大限利用した住宅である。居間・食堂のレベルは緑地との境界塀に合わせて1.4mの高さに設定され、居間の外側にすのこデッキが塀の高さに設えられ、居間の空間は生産緑地と一体化し気持ちのいい環境が生み出されている。
 この居間の中心にキッチンと連続した大テーブルと畳の間が設置され、この住宅全体の中心空間をつくっている。この居間空間の天井は、中心はモルタル塗りの四角い板状の天井があり、その外側に開口上部の下がり壁に放射状の木ルーバーが四方に広がっていて、天井高のゆとりを見せながら外部の緑地へ連続している。
 地下にはアトリエ・書斎があり、施主の趣味であるダイビングの海の中のような蒼黒い空間で演出されている。設計者は回遊動線を狭い空間に仕掛け、玄関から収納の中を通って厨房・居間と繋がる動線、2階への中央階段から洗面室を通り抜け、バルコニーから屋上へ上がる動線など、どんな細かな空間も無駄にしない設計がなされている。
 浴室も北・隣地斜線によって低い天井高にせざるを得ないところを、大きな透明ガラスの天井にして、星空の浴室にしてしまうなど、設計の楽しさを十分に発揮した秀逸な住宅が生まれている。
選考委員:中村 勉
 
戸建住宅部門|奨励賞
塩野山の家
野生司環境設計
 長野新幹線の軽井沢で「しなの鉄道」に乗り換え、3つ目の御代田駅から車で30分ほどの分譲別荘地。分譲区画4つほどの広さのある南北に長い敷地は、南斜面の木立の中にありました。東西の隣地がカラマツの国有林なので、北側に建物を配置することで、周囲の視線をまったく気にせずに過ごせる別荘空間が演出されています。
 小規模でシンプルな建物は、南北がすべて開口部になり、開口部の大きさは、幅、高さ共にペアガラスの最大寸法で決められているということでした。
 平面図だけを見るとこれといった特徴はないのですが、両流れの屋根の棟が対角線にとられ、室内空間に変化とゆとりを演出しています。地場産の太い木材で細かいピッチの垂木を組み、それを露出することによって生活空間に温もりと安らぎを与えています。
 無駄のない平面計画と、空間の変化で自然との対話を重視した手馴れた設計手法は奨励賞に値します。
選考委員:西倉 努
 
共同住宅部門|優秀賞
りびんぐの家──人を繋げる共用リビング
ビーフンデザイン+EANA
 本作品は、世田谷区の新興住宅地に立地する約192m2の敷地に建てられた4住戸の共同住宅であり、オーナー住戸および3軒の賃貸住戸からなる。通常の賃貸住宅では住人間のコミュニティは形成されにくいが、本作品では、中庭を囲むように4住戸を配置し、中庭を共用リビングとすることにより、住人間のコミュニティが自然に発生するような計画がなされている。各住戸へのアプローチも中庭を通るかたちに計画され、各住戸1階エントランスドアである大きな引き戸を開放すると、エントランスと中庭が一体化し、中庭の共有感が一段と高まる。
 各住戸はメゾネット方式であり、平面的には決して広くはないが、ロフトを伴って立体感のある居住空間となっている。中庭の共有性を高めつつも、中庭に面する開口はほとんどなく、バルコニーを各住戸の間の狭間に設けることで、各住戸のプライバシーにも配慮が払われている。
 ロフト空間をそのまま外観に表したボリューム、中庭に面する開口を抑制することで生じる壁と開口部のメリハリ感など、限られた予算の中で、外観上も通常の小規模共同住宅とは異なる建築的な味わいを生み出している。
 これらの建築的工夫によって、本作品は、共有性とプライバシーをバランスよく兼ね備えた住空間と、通常のアパートとは異なる良好な建築的雰囲気を備えた共同住宅となっている。この点が高く評価され、共同住宅部門優秀賞に選ばれた。
選考委員:小林 克弘
 
共同住宅部門|優秀賞
月島荘
三菱地所設計
 社員寮あるいは社宅という形式は、単体企業に勤める方たち、あるいは世帯によって構成される住宅、すなわち、ある意味閉じた環境のコミュニティを意味するビルディングタイプとして一般的には認識される。
 シェアという言葉は、その本質的な意味が空間化されるとすれば素晴らしい概念であるが、近年この言葉が一般化する中では、本来の意味とかけ離れた空間がこの用語によって説明されるのを耳にすることも少なくない。
 「社員寮」を「シェアする」このプロジェクトでは、住戸ユニットと共用空間を、複数の企業の社員寮として利用してもらうことで、生活空間の共同利用にとどまらず、業種を超えたコミュニケーションが創出される住空間の提供というコンセプトが掲げられ、その着想、従前考察されていたプログラムからの転換の経緯など、コンセプト形成とプロジェクト推進に対する建築主の英断には感嘆するものがある。
 分棟形式によって施設にとって有効なプログラムだけを配置する考察、住戸ユニットの配列とファサード表現における構造的な工夫など、設計者の的確な判断のもとに建築主のコンセプトが空間化されている。主たる共用施設は、機能を振り分けられて3棟の1階部分に配置され、それぞれから各棟の1階共用空間に対して横串に視線が通る構成となっており、共用空間における入居者の活動が個別の行動であっても、それらの重なりを互いに自然に感じることができる。
 ここでは単に空間の機能を共同利用することから一歩踏み出した「シェア」の感覚を覚えることでき、優秀賞にふさわしい新しい風景が実現されていると感じられた。
選考委員:國分 昭子
 
共同住宅部門|奨励賞
下馬の集合住宅
KUS+team Timberize
 5階建てのうち、上部4階が木造の各階1住戸の集合住宅。これを梁のない240mmの極厚でソリッドな木質のフラットスラブ形式で実現している。これによって上下階の遮音効果を得、同時に印象的な木製ルーバー状のブレースを構造要素として効かせている構成が巧みである。また周囲の変化に富む景観を生活の楽しみに取り込む螺旋状の外部歩廊は、カーテンウォールのようなシステマチックな外観に対するユニークで洒落たアクセントとなっている。
 ブレース要素を無耐火とし、木造ならではの柔らかな印象が合理的に実現されていることも含めて、決して構成要素が多いわけではないが、選ばれたどの役者も2役以上をこなし、新鮮で優しい印象に辿り着いている。
 これ以上の進歩を望むとすれば、木ルーバー越しのガラスのクリーニングや、螺旋歩廊の建物内のコミュニティ装置としての工夫、さらに2系統の縦動線の住戸内の整理などが挙げられるかもしれないものの、秀逸な作品であることに間違いはない。この点が高く評価され、共同住宅部門奨励賞に選ばれた。
選考委員:車戸 城二
 
共同住宅部門|奨励賞
KURO building
KINO architects
 道路拡幅を契機とした建て替えにより、店舗とオーナー住戸、テナント住戸を複合させ、不動産物件としての地域における差異化の必要性など、十分に考慮されたプログラムの建物である。
 設計者はこの場所に暮らした期間があるとのことで、どの高さ、どの位置、どの方位に、住戸に対して最も有効な開口が確保できるかなど、土地のポテンシャルを生かし切るさまざまな考察が設計に反映されている。
 立地は高層ビルが建ち並ぶエリアと目と鼻の先にあり、決して活気ある状態とはいえない商店街にあって、古い木造家屋と、従前の街並みに対して階数と高さがある建て替えられた建物が混在する地域であるが、その中でこの建物の黒い外壁は、意外なほど街並みに対してしっくりした落ち着き感を放っていた。
 近景として建物をみると、建設時期における資材の不足もあって検討したという型枠のOSB合板が写し取られた陰影あるファサード面に、濃淡が塗り分けられた塗装、絶妙なバランスで考察されている目地、角度をつけて開口部まわりに設置された庇と袖壁など、設計者のセンスのよさが心地よく感じられる建物となっており、奨励賞にふさわしいとされた。
 貸し床部分にはこの建物の心地よさを理解して入居している様子が見えたが、テナント部分の構成は、狭いアプローチ、急な階段などある意味で使い手を選ぶつくりとなっており、これらが恒久的な構造形式として建築されることに考慮を加えられる可能性もあったのではないかと考える。
選考委員:國分 昭子
 
一般一類部門|最優秀賞
山武市立しらはたこども園
竹中工務店
 3.11東北地方太平洋沖地震によって、山武市内九十九里浜沿岸にあった4つの幼稚園と保育園が津波被害を受けた。これらの施設をひとつに統合してできたこども園である。
 統合したとはいえ、沿岸から広がる平野が続く中にあったこれまでの施設近くに、高台があるわけではない。海岸から5km以上離れた新しい施設の敷地も、高さ2mの津波が予測されている。どうすればその津波から子どもを守れるかの課題に対する解答が「津波を受け流す」であった。その方法として考えられたのは、耐震性能を確保するための耐震壁以外の間仕切壁を、津波の際には流されることを前提とした乾式壁として津波の力を受け流す構造方式であった。
 広い円形の遊技場を囲むようにしてかたちづくられた円と直線を組み合わせた平面形状は、開放感に溢れ、風通しのよい明るく伸び伸びとした内部空間の実現に成功している。また銀色に光る屋根と深くはね出した庇の外観は、この種の施設にありがちな過剰な賑やかさを抑えて、施設全体に落ち着きと安心感をもたらしている。
 構造的にも施工的にも決して易しい形状の建築ではないが、さりげなく周到にその難しさを解決しながら、比較的低コストで建設されている。
 その結果生み出されたこの施設が、施設に関わる人たちに災害を乗り越えた安堵感と誇りをもって受け入れられ、利用されている様子は感動的である。よって最優秀賞受賞作品にふさわしい建築と評価された。
選考委員:金田 勝徳
 
一般一類部門|優秀賞
しんえいこども園 もくもく
16アーキテクツ
 この施設は、高田馬場駅にほど近い閑静な住宅街に位置しており、2011年に廃校となった中学校校舎を、認定こども園と学童クラブ併設のコンバージョン計画で改修したものである。
 既存建物はRC造4階建で、外観からは正面入口の壁面緑化と外壁色彩化、木製門扉のほか耐震補強ブレースが目に留まるものの、こども園の印象は薄い。改修では、構造躯体を変えず、面積増加のないことが計画条件とされた。また、屋内では廊下を軸に教室や階段、また補強壁が躯体のまま残された平面配置となっていた。
 この困難な課題に対して設計者は、用途変更でのスプリンクラー設置を生かし、子どもたちの居心地のよい施設のために、木材と幾何学的な壁の構成で画期的な空間を生み出した。
 建物全体に木製フローリング、湾曲した壁や、斜めに配置した間仕切り壁に天然木材33種類をふんだんに使うことで、温もりがあり親しみのある内部空間が実現されている。特に防火上の区画壁が要る廊下と上下移動空間の階段は、独立柱を鏡面の円柱にし、その周りを木材を張り込んだ楕円状の壁で囲むことで、上下一体の広いあそび場に生まれ変わっている。また保育室には、あたかも樹木の上の隠れ家的なツリーハウスがある。子どもたちの冒険心と遊び心を引き出す絶妙な計画であり、さまざまな仕掛けが随所にあり楽しい。
 「しんえいこども園もくもく」は、木材をテーマにさまざまな木材を多用することで、建物全体の空間一体性を創出し、日々の驚きと発見や木の独特の手触りなど、子どもたちが自然との触れ合いを感じ取れる活気溢れる施設になっている。階で分けられた保育室と学童保育室は、成長と発達といった子どもたちを育む空間としても成功していて、今後、同様のコンバージョンに一石を投じる作品として高く評価された。
選考委員:福島 賢哉
 
一般一類部門|奨励賞
コロナ電気新社屋工場(Ⅰ期工事)
bews ビルディング・エンバイロメント・ワークショップ
 3.11の大震災で被害を受けたひたちなか市の、築50年の古い歴史のある工場の再建計画です。
 大きな被害を受けながらも工場は稼動しなければならず、既存不適格の工場を半分解体して、Ⅰ期工事として計画されました。それには建築基準法の一部緩和を受ける全体計画認定を受ける必要があり、ひたちなか市もこの認定を受けるのは初めてとのことで、担当の職員と共に勉強しながらの作業であったそうです。
 職人の手作業的な作業が行われる中央のメイン作業場は、周囲より床を1mほど下げて空間に落ち着きを持たせ、屋根からはユニークな北側採光を取り入れています。そして、その周りに外気や採光を取り入れる空間を設け、アットランダムに事務所などの必要諸室を配置しています。このことが一般的な工場とは異なる良好な作業空間を生み出していると思います。
 若い建築家が建築主の信頼を得て力いっぱい戦った作品には愛情が込められており、奨励賞にふさわしい秀作です。
選考委員:西倉 努
 
一般二類部門|最優秀賞
洗足学園音楽大学
k/o design studio + KAJIMA DESIGN
 創立90年の歴史を持つ学園の中では比較的新しい、音楽大学のあり方を象徴する施設を目指して建設されたリハーサル室と事務棟である。
 敷地の前面道路に面したこのふたつの施設の間には連絡通路が設けられ、学園全体の新しいメインゲートとしても位置づけられている。
 Silver mountainと名づけられたリハーサル室は音楽大学の教室であり、市民が学生の練習風景を鑑賞できる場として開放もされているという。3次元曲面で構成された特徴的な形状と、全体をステンレス一文字葺で均質に仕上げられて銀色に輝く外観は、周辺環境とは異なる際立った印象を与えている。
 一方Red cliffは対照的に直線的な壁に囲まれた壁式RC造として、その名の通り絶壁のように学園内のエントランス道路脇に屹立している。各階共、長手方向横一線に開けられた細長い連窓以外に開口部の少ない直方体の壁は、赤色系3色のタイルで覆われ、Silver mountainと対となって新しい街の景観を創出している。
 これらふたつの施設は、一見学園内の既存建築とも、近隣の街並みとも違った異質な肌触りを持っているように見える。それだけにこの計画を実現する上で、学園と設計者、設計者と施工者との並々ならぬ連携や相互理解があったことは想像に難くない。その成果としてでき上がった連絡通路を含めたこれら一群の建築が、違和感なく街と学園との結節点のように感じられるまで昇華させた関係者のチームワークと総合力は、最優秀賞にふさわしいものと評価された。
選考委員:金田 勝徳
 
一般二類部門|優秀賞
燕市庁舎
梓設計
 3市町の合併により新しく計画された新市庁舎の敷地は、周辺に何もない田園地帯の真ん中にスクエアな型で設定された。各々の町の中心から隔たった場所で、来庁者のための多くの駐車スペースが必要となり、結果敷地の中央に駐車場に囲まれて庁舎と広場が配置された。
 市庁舎はコンパクトに、かつ正統的にまとめられた平面型で、南面する広大な広場と一体となったコミュニケーションスペースが大きな特徴となっている。
 「えん側」と名付けられたこのスペースは、4層の吹き抜け空間の中に浮遊するように多層のデッキがレベルと位置を変えて展開し、さまざまな場所でのコミュニケーションが互いに視認されるように構成されている。
 南面の広大な広場に面した大きなガラスカーテンウォールからの充分な陽光の中で、この浮遊するデッキは魅力的な空間をつくり出している。
 平面型の中央にはエコボイドとしての吹き抜けをとり、ドラフトによる自然換気と自然採光に役立てている。太陽光発電、雨水利用、蓄熱式空調システム、床吹き空調などの省エネシステムを駆使し、構造計画上も免震構造、プレキャスト無梁版、吹き抜け部分の細い鉄骨柱の採用など、充分に練られた計画が感じられる。大きく張り出した庇が外観を端整にまとめ、外装には地場産業を象徴するステンレス鋼板を使用し、シンプルな形態が、なにもない田園の中での存在感を高めている。
 市庁舎としての特に新しいコンセプトは見られないが、従来の手法をさまざまに駆使してシンプルで完成度高くまとめられていて、若いスタッフが意欲的に取り組んだ好感の持てる作品である。
選考委員:岡本 賢
 
一般二類部門|優秀賞
東京理科大学葛飾図書館
日建設計
 正面の図書館入口を入ると、いきなりひな壇状に迫り上がる書棚の夥しい数の蔵書に囲まれる。デジタル化される前、「情報」がこのような物質的存在感と重量のあるものだった時代の古典的な図書館の風情を思い起こさせてくれる。
 この劇場型図書館の印象が、上部に浮いた600人ホールとシンクロして、その求心性がキャンパスを秩序づける重心になっており、正攻法で明快な構成である。
 柱梁といった主架構をそのまま現した軽快な表現を装う一方、上階のホールは周囲すべてをアルキャストで包んで注意深く建物の他の部分と切り離され、先細りに造形された柱で浮揚させていて、到達すべきイメージへの周到な計算が窺える。
 建物周囲の大庇も水盤の上に軽やかに表現されているために、シンメトリーの古典的なキャンパススケープに爽やかな印象を持ち込むことに成功している。
 広大な全体計画の中で登場してくる多種多様な要素を、デザインの多様性と一貫性の絶妙なバランスを取りながらまとめ切る高い力量を見せている。
選考委員:車戸 城二
 
一般二類部門|奨励賞
資生堂銀座ビル
竹中工務店
 銀座の女性化粧品会社のビルといえばファサードの外装の華やかさが特徴だ。資生堂はその中でも常に新しい日本の美意識を創出し続けてきたが、この銀座ビルを施主の価値創造を担う拠点と位置づけ、その象徴として施主が洗練を続けてきたモチーフを3次元形状にオリジナルにデザインした、「未来唐草」と名付けたアルミシェードで建物全体を包み込んだ。
 「未来唐草」は、執務空間の温熱・光環境を豊かにし、周辺からの視線を制御しつつ、開放感のある新しいインテリアを実現している。未来唐草は一本の流線が全方向に連続する唐草の形状をダイヤモンド分子の立体トラス形状と重ねあわせ、立体的に1枚のパネルとして自立できる構造を3Dモデルでつくり出したもの。W1.8m×H4.25m×D0.3mのアルキャストの一体鋳造パネルとし、建築本体から吊り下げている。そのジョイントも立体的に空間を開けながらも唐草の連続性を失わないかたちを産み出している。
 低層階には銀座という街のにぎわいを創出する店舗を配し、アートディスプレイや多目的ホールなどを設け、屋上階には社員の交流を促す「資生堂の庭」という緑化された癒しスペースを取り込んでいる。
 すべての階の空間をファサードの未来唐草が包み、資生堂の美意識を感じさせ、徹底したコンセプトを示している。アルキャストの軽さと白さが、女性の美へのあこがれを象徴し、同時に銀座の街並みに華やぎを添える建築となっている。
選考委員:中村 勉
車戸 城二(くるまど・じょうじ)
建築家、(株)竹中工務店 執行役員
1956年生まれ/1979年 早稲田大学卒業/1981年同大学院修了後、株式会社竹中工務店/1988年 カリフォルニア大学バークレー校建築学修士課程修了/1989年 コロンビア大学都市デザイン修士課程修了/2011年 株式会社竹中工務店設計部長/現在、同社執行役員
金田 勝徳(かねだ・かつのり)
構造家、構造計画プラス・ワン 代表、工学博士、構造設計一級建築士、JSCA建築構造士
1968年 日本大学理工学部建築学科卒業/1968〜86年 石本建築事務所/1986〜88年TIS&Partners取締役/1988年〜現在 構造計画プラス・ワン 代表取締役/2005〜10年 芝浦工業大学工学部建築学科 特任教授/2010〜14年 日本大学理工学部建築学科 特任教授
岡本 賢(おかもと・まさる)
建築家、(一社)日本建築美術協会会長
1939年東京都生まれ/1964年 名古屋工業大学建築学科卒業後、株式会社久米建築事務所(現・株式会社久米設計)/1999年 同代表取締役社長/2006年 社団法人東京都建築士事務所協会副会長/2014年 一般社団法人日本建築美術協会会長
中村 勉(なかむら・べん)
建築家、一般社団法人東京建築士会 会長
1946年東京都生まれ/1969年東京大学工学部建築学科卒業/1969〜77年槇総合計画事務所/1977〜88年AUR建築・都市・研究コンサルタント/1988年中村勉総合計画事務所設立
西倉 努(にしくら・つとむ)
一般社団法人東京都建築士事務所協会会長代行(副会長)
1948年生まれ/1970年日本大学工学部建築学科卒業/現在、株式会社ユニバァサル設計事務所 代表取締役会長
小林 克弘(こばやし・かつひろ)
1955年 生まれ/1977年 東京大学工学部建築学科卒業/1985年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了、工学博士/東京都立大学専任講師、助教授を経て、現在、首都大学東京大学院都市環境科学研究科建築学域教授/近著に『建築転生 世界のコンバージョン建築Ⅱ』鹿島出版会、2013年、『スカイスクレイパーズ──世界の高層建築の挑戦』鹿島出版会、2015年など
國分 昭子(こくぶん・あきこ)
建築家、(株)IKDS 共同代表
1988年東京大学工学部建築学科卒業後、槇総合計画事務所/1997年より株式会社IKDS/2013年東京大学工学系大学院都市工学専攻にて博士号取得
福島 賢哉(ふくしま・けんや)
一般社団法人東京都建築士事務所協会監事
1947年生まれ/1971年日本大学大学院理工学研究科建築学専攻修了/1971〜90年株式会社 伊藤喜三郎建築研究所/1990年〜株式会社賢プランズ設計事務所代表取締役
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