新規登録建築士事務所 建築士事務所実務講習会開催
──「すぐに役立つ業務と経営のノウハウ」をテーマに
文:飛田 早苗(東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員、株式会社日建設計)
写真:大平 孝至(東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員、台東支部監事、株式会社ダイリン一級建築士事務所)
写真:大平 孝至(東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員、台東支部監事、株式会社ダイリン一級建築士事務所)
平成30(2018)年2月8日(木)14時より、新宿ワシントンホテルにて、一般社団法人東京都建築士事務所協会主催の「新規登録建築士事務所 建築士事務所実務講習会」が開催された。新たに建築士事務所登録をされた開設者の方など23名にご参加いただき、3名の講師による講演と意見交換会が行われた。円卓形式の会場では、参加者と共に各地域の支部長や本部役員が地域ごとに着席した。
まず、確認申請の概況として、都内では建築確認の94%(平成28年度45,154件)が民間の指定確認検査機関によって実施されていることや、その発足経緯などが紹介された。実務面での課題として、指定確認検査機関では法律のグレーゾーンについての解釈・判断ができないため、特定行政庁に判断を仰ぎ、担当者名をきちんと記録して指定確認検査機関と情報共有を図ることが重要とのアドバイスがあった。加えて、指定確認検査機関が行った建築確認申請等が裁判所や建築審査会で取り消された事例に伴う建築士の業務停止の実例紹介等を通じて、「速やかな申請」に潜むリスクの認識と、しっかりチェックしてくれる指定確認検査機関を選ぶことの大切さについて説明があった。
また、今後の状況として、徐々に増えつつある電子申請や確認申請代行サービス等についても紹介いただいた。
平成26(2014)年の建築士法改正以前は、重要事項説明と書面交付の制度はあったが、合意内容を証する書面での契約は必ずしも必要とされず、紛争が生じやすい状況となっていた。書面の義務化は紛争防止目的以上に、建築士しかできない業務を保護し、建築士・建築士事務所の地位を守る意味合いが大きいそうだ。書面の義務化を規制強化と捉えるのではなく、契約書を、①業務遂行に必要な建築主と建築士の責務の明確化、②適正な報酬の確保、③業務内容の商品化、について協議するための戦略的ツールとして捉えることこそが、建築主と建築士双方の心構えとして重要であるとのことだ。
また、「話せば分かる」とあいまいな状態で仕事を進めてしまうと、途中で仕事が中止になった場合、出来高に応じた報酬を請求するのが難しくなる。四会連合協定の「建築設計・監理等委託業務委託契約約款」をベースに、建築主に守ってほしいことを特約として付すなど自らの希望を反映し、契約協議を主導的に働きかけることで専門家としての信頼確保につなげてほしい、とのアドバイスをいただいた。
自身の経験として、独立してから時間の使い方に悩み、自身の活動を整理・分類し視覚化したことで得られた気づきについてお話しいただいた。まず、設計業務、情報収集、営業活動という時間配分のうち、かなりの時間を情報収集や自己研鑽に費やしていることが分かったそうだ。後輩からよく聞かれる「どうやって仕事をとってくるのですか?」との質問についても、純粋な顧客開拓というよりも、情報収集・ネットワークづくりのために参加した本会を含む業界団体の委員会や研究会での活動が大いに役立っているという。ここ数年では、地域との関わりを深めたいという思いで登録した本会文京支部での活動や、区立中学校のキャリア教育支援、耐震・不燃化・景観に関する相談、空き家対策等の地域課題に積極的に取り組み、専門性を生かした社会への情報発信を行っているそうだ。
人口減少、コンパクトシティ等、社会環境の変化に直面している今日、これまでのようにただつくるだけでなく、みえないものを提案・解決していく技術が建築士に求められてきている。自己研鑽、仲間づくり、社会貢献といった一見実際の業務には結び付かないような活動が、自分の仕事環境の構築につながり、日々の業務の幅を広げ、また前に進むためのエンジンにもなっているとのことだった。
最後に各テーブルの代表者から意見交換の様子が発表された。参加者からは「人材不足で悩んでいる」、「どうしたら仕事が取れるのか」といった事務所運営に関する質問が多くあり、支部長などからは「業界全体で夢のあるものづくり環境を整備することが重要」、「各業界団体の活動や人脈を活した地域への奉仕活動や情報交換・ネットワークづくりにより、徐々に仕事の幅を広げていくのがよい」などのアドバイスがあった。
今回の実務講習会に参加された皆さんには、ぜひ東京都建築士事務所協会の活動に加わっていただき、交流・研修・各種イベント等を通じて、建築士の地位向上、技術研鑽、まちづくりなど社会への貢献に取り組んでいただきたいと願っている。
児玉耕二東京都建築士事務所協会会長挨拶(要約)
本日は3つの講習が行われますが、真の目的はフェイス・トゥー・フェイスで生きた情報を得て、仲間やネットワークづくりをしていただくことです。当協会には29の支部があり、この会場にも多くの支部長が参加しておりますので地域ならではの情報交換もしていただくことができます。この機会を有効活用していただくとともに、チャンスがあれば、ぜひ本会に入会して活動に参加いただき、その輪をさらに広げ強固なものにしていただければと思います。
講義1:建築確認申請業務について──速やかな申請の進め方/株式会社確認サービス取締役執行役員 平野正利氏
東京都にて長年、建築指導の現場を歴任されてこられた平野氏より、「建築確認申請の概況」、「建築確認の推移」、「今後の状況」について説明いただいた。まず、確認申請の概況として、都内では建築確認の94%(平成28年度45,154件)が民間の指定確認検査機関によって実施されていることや、その発足経緯などが紹介された。実務面での課題として、指定確認検査機関では法律のグレーゾーンについての解釈・判断ができないため、特定行政庁に判断を仰ぎ、担当者名をきちんと記録して指定確認検査機関と情報共有を図ることが重要とのアドバイスがあった。加えて、指定確認検査機関が行った建築確認申請等が裁判所や建築審査会で取り消された事例に伴う建築士の業務停止の実例紹介等を通じて、「速やかな申請」に潜むリスクの認識と、しっかりチェックしてくれる指定確認検査機関を選ぶことの大切さについて説明があった。
また、今後の状況として、徐々に増えつつある電子申請や確認申請代行サービス等についても紹介いただいた。
講義2:建築士事務所の契約について
相川法律事務所 弁護士 相川泰男氏
平成25(2013)年に東京弁護士会副会長、翌年に同会常議員を歴任された弁護士の相川先生より、建築士法の改正に伴い延べ面積300㎡を超える建築物で義務化された書面での契約締結について説明いただいた。相川法律事務所 弁護士 相川泰男氏
平成26(2014)年の建築士法改正以前は、重要事項説明と書面交付の制度はあったが、合意内容を証する書面での契約は必ずしも必要とされず、紛争が生じやすい状況となっていた。書面の義務化は紛争防止目的以上に、建築士しかできない業務を保護し、建築士・建築士事務所の地位を守る意味合いが大きいそうだ。書面の義務化を規制強化と捉えるのではなく、契約書を、①業務遂行に必要な建築主と建築士の責務の明確化、②適正な報酬の確保、③業務内容の商品化、について協議するための戦略的ツールとして捉えることこそが、建築主と建築士双方の心構えとして重要であるとのことだ。
また、「話せば分かる」とあいまいな状態で仕事を進めてしまうと、途中で仕事が中止になった場合、出来高に応じた報酬を請求するのが難しくなる。四会連合協定の「建築設計・監理等委託業務委託契約約款」をベースに、建築主に守ってほしいことを特約として付すなど自らの希望を反映し、契約協議を主導的に働きかけることで専門家としての信頼確保につなげてほしい、とのアドバイスをいただいた。
講義3:設計事務所の業務と活動──設計事務所のネットワークづくり/東京都建築士事務所協会事業企画委員、レジオン・コンサバティブ株式会社代表取締役 三上紀子氏
住宅の設計監理やデザイン監修の業務に加え、住宅に関する講演、書籍への執筆や監修、大学の非常勤講師等、非常に幅広い活動を展開されている三上紀子委員より「建築士の業務」と独立されてからのキャリア形成について紹介いただいた。自身の経験として、独立してから時間の使い方に悩み、自身の活動を整理・分類し視覚化したことで得られた気づきについてお話しいただいた。まず、設計業務、情報収集、営業活動という時間配分のうち、かなりの時間を情報収集や自己研鑽に費やしていることが分かったそうだ。後輩からよく聞かれる「どうやって仕事をとってくるのですか?」との質問についても、純粋な顧客開拓というよりも、情報収集・ネットワークづくりのために参加した本会を含む業界団体の委員会や研究会での活動が大いに役立っているという。ここ数年では、地域との関わりを深めたいという思いで登録した本会文京支部での活動や、区立中学校のキャリア教育支援、耐震・不燃化・景観に関する相談、空き家対策等の地域課題に積極的に取り組み、専門性を生かした社会への情報発信を行っているそうだ。
人口減少、コンパクトシティ等、社会環境の変化に直面している今日、これまでのようにただつくるだけでなく、みえないものを提案・解決していく技術が建築士に求められてきている。自己研鑽、仲間づくり、社会貢献といった一見実際の業務には結び付かないような活動が、自分の仕事環境の構築につながり、日々の業務の幅を広げ、また前に進むためのエンジンにもなっているとのことだった。
意見交換
すべての講演が終了した後、地域ごとに振り分けられた6つのテーブルそれぞれで、参加者と各支部の支部長、本部役員が意見交換・交流を行った。最後に各テーブルの代表者から意見交換の様子が発表された。参加者からは「人材不足で悩んでいる」、「どうしたら仕事が取れるのか」といった事務所運営に関する質問が多くあり、支部長などからは「業界全体で夢のあるものづくり環境を整備することが重要」、「各業界団体の活動や人脈を活した地域への奉仕活動や情報交換・ネットワークづくりにより、徐々に仕事の幅を広げていくのがよい」などのアドバイスがあった。
今回の実務講習会に参加された皆さんには、ぜひ東京都建築士事務所協会の活動に加わっていただき、交流・研修・各種イベント等を通じて、建築士の地位向上、技術研鑽、まちづくりなど社会への貢献に取り組んでいただきたいと願っている。
飛田 早苗(とびた・さなえ)
東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員、株式会社日建設計
神奈川県横浜市生まれ/慶應義塾大学総合政策学部卒業/現在、株式会社日建設計広報室課長
神奈川県横浜市生まれ/慶應義塾大学総合政策学部卒業/現在、株式会社日建設計広報室課長
大平 孝至(おおひら・たかし)
東京都建築士事務所協会会誌・HP専門委員、台東支部監事、株式会社ダイリン一級建築士事務所
1984年 東京電機大学建築学科卒業/株式会社ダイリン一級建築士事務所勤務。マクドナルド、松屋、鳥貴族等、チェーン展開の飲食店の建築設計及び店舗デザイン設計をする
1984年 東京電機大学建築学科卒業/株式会社ダイリン一級建築士事務所勤務。マクドナルド、松屋、鳥貴族等、チェーン展開の飲食店の建築設計及び店舗デザイン設計をする
記事カテゴリー:東京都建築士事務所協会関連
タグ:研修委員会