東京消防庁からのお知らせ ⑪
病院・有床診療所等に係る消防法施行令の一部改正等について
東京消防庁
1 はじめに
 平成26(2014)年10月に、「消防法施行令の一部を改正する政令」(平成26年政令第333号)、「消防法施行規則及び特定小規模施設における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令の一部を改正する省令」(平成26年総務省令第80号)及び「火災通報装置の基準の一部を改正する件」(平成26年消防庁告示第24号)が公布され、平成28(2016)年4月1日に施行されました。
 この改正は、平成25(2015)年10月に発生した福岡市有床診療所火災を踏まえ、病院、有床診療所等のうちスプリンクラー設備等の設置が義務付けられる範囲が拡大され、消火器具、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、動力消防ポンプ設備及び消防機関へ通報する火災報知設備の設置及び維持に関する技術上の基準の一部改正等が行われたものです。
 さらに、平成28(2016)年1月には、「必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令第2条第2項の規定に基づくパッケージ型自動消火設備の設置及び維持に関する技術上の基準の一部を改正する件」(平成28年消防庁告示第3号)等が公布され、施行されました。
本稿では、これらの改正概要を紹介します。
2 消防法施行令の改正概要
(1) (6)項イの細分化(別表第1関係)
消防用設備等の設置基準に対応して病院・診療所等が次の4つに細分化されました。(図1参照)
①「避難のために患者の介助が必要な病院」は、次の3つの要件に該当するものとされました。
a 診療科名について
 総務省令で定める「特定診療科名」(肛門外科、乳腺外科、形成外科、美容外科、小児科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻いんこう科、産科、婦人科、歯科 以外)を有すること。
b 病床の種別について
 医療法上の5種類の病床(一般、療養、精神、感染症及び結核)のうち、一般病床又は療養病床を有すること。
c 職員体制について
 総務省令で定める「火災発生時の延焼を抑制するための消火活動を適切に実施できる体制」を有しないこと。

②「避難のために患者の介助が必要な有床診療所」は、次の2つの要件に該当するものとされました。
a 診療科名について
 特定診療科名を有すること。
b 病床数について
 病床数が4床以上であること。
図1 病院・診療所・助産所の消防法上の用途判定フロー
 
(2) 消火器具の設置基準の見直し(第10条関係。図2参照)
 (6)項イ(1)から(3)までに掲げる防火対象物は患者が入院する施設であり、初期消火が重要であるため、面積にかかわらず消火器具の設置が義務付けられました(改正前の面積要件:150㎡以上)。

(3) スプリンクラー設備の設置基準の見直し(第12条第1項関係。図2参照)
①(6)項イ(1)及び(2)に掲げる防火対象物に係る設置基準の強化
 (6)項イ(1)及び(2)に掲げる防火対象物は避難のために介助が必要な患者が多数入院する施設であり、確実な初期消火が重要であるため、延べ面積にかかわらずスプリンクラー設備の設置が義務付けられました。
ただし、火災発生時の延焼を抑制する機能を備える構造として総務省令で定める構造(以下「延焼抑制構造」という。)を有するものは対象外とされました。

②(6)項イ(1)から(3)までに掲げる防火対象物に係る設置基準の強化
 (6)項イ(1)から(3)までに掲げる防火対象物のうち、平屋建以外のもので、総務省令で定める部分(耐火構造の壁及び床で区画された部分)以外の部分の床面積が3,000㎡以上のものにスプリンクラー設備の設置が義務付けられました(改正前の面積要件:病院3,000㎡以上、診療所又は助産所6,000㎡以上)。

(4) 特定施設水道連結型スプリンクラー設備の設置基準の見直し(第12条第2項関係)
① (3) ①の改正により小規模な病院、有床診療所等にもスプリンクラー設備の設置が義務付けられたため、手術室、レントゲン室等区画された「防火上有効な措置が講じられた構造を有する部分」として総務省令で定める部分の床面積を除いた床面積の合計である「基準面積」が1,000㎡未満の施設には、特定施設水道連結型スプリンクラー設備を設置することができることとされました(改正前の面積要件:延べ面積1,000㎡未満)。
② ①に合わせ、主要構造部を耐火構造等とした(6)項イ(1)及び(2)に掲げる防火対象物への屋内消火栓設備及び動力消防ポンプの設置基準も、基準面積1,000㎡以上に改正されました(改正前の面積基準:延べ面積1,000㎡以上)。

(5) 消防機関へ通報する火災報知設備の設置基準の見直し(第23条関係)
 (6)項イ(1)から(3)までに掲げる防火対象物は、少しでも避難介助等の時間を確保する必要があるため、面積にかかわらず消防機関へ通報する火災報知設備の設置が義務付けられました(改正前の面積要件:500㎡以上)。
図2 病院・診療所・助産所の消防用設備等の設置義務
3 消防法施行規則の改正概要
(1) 防火対象物の用途の指定
① 職員体制について(第5条第3項関係)
 (6)項イ(1)に規定する「火災発生時の延焼を抑制するための消火活動を適切に実施することができる体制を有するものとして総務省令で定めるもの」は、次のいずれにも該当する体制を有する病院とされました。
a 勤務させる医師、看護師、事務職員その他の職員の数が、病床数が26床以下のときは2、26床を超えるときは2に13床までを増すごとに1を加えた数を常時下回らない体制
b 勤務させる医師、看護師、事務職員その他の職員(宿直勤務を行わせる者を除く。)の数が、病床数が60床以下のときは2、60床を超えるときは2に60床までを増すごとに2を加えた数を常時下回らない体制

② 特定診療科名について(第5条第4項関係)
 (6)項イ(1)ⅰに規定する「総務省令で定める診療科名」は、次に掲げるもの以外のものとされました。
a 肛門外科、乳腺外科、形成外科、美容外科、小児科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻いんこう科、産科、婦人科
b aに掲げる診療科名と医療法施行令第3条の2第1項第1号ハ(1)から(4)までに定める事項とを組み合わせた名称
c 歯科
d 歯科と医療法施行令第3条の2第1項第2号ロ(1)及び(2)に定める事項とを組み合わせた名称
(2) 延焼抑制構造の適用範囲の見直し(第12条の2第1項及び第2項関係)
① 2、(3)、①の改正に伴い、延焼抑制構造の基準を、(6)項イ(1)及び(2)に掲げる防火対象物並びに(16)項イ及び(16の2)項に掲げる防火対象物((6)項イ(1)又は(2)に掲げる防火対象物の用途に供される部分に限る。)に適用することとされました。

② 2、(4)の特定施設水道連結型スプリンクラー設備の面積要件の見直しに伴い、延焼抑制構造について、改正前は延べ面積を基準としていたものが「基準面積」を基準とすることとされました。

(3) スプリンクラーヘッドを設けることを要しない部分の適用範囲の見直し(第13条第3項第9号の2関係)
 廊下、2㎡未満の収納設備、脱衣所その他これらに類する場所にスプリンクラーヘッドを設けることを要しないとされる防火対象物に、(6)項イ(1)及び(2)に掲げる防火対象物並びに(16)項イ、(16の2)項及び(16の3)項に掲げる防火対象物((6)項イ(1)又は(2)に掲げる防火対象物の用途に供される部分に限る。)が追加され、その適用範囲は基準面積が1,000㎡未満のものとされました。

(4) 「防火上有効な措置が講じられた構造を有する部分」の指定(第13条の5の2関係)
 令第12条第2項第3号の2に規定する「総務省令で定める部分」は、次のいずれにも該当する部分(当該部分の床面積の合計は防火対象物の延べ面積の2分の1を上限とする。)とされました。

① 規則第13条第3項第7号又は第8号に掲げる部分(手術室、レントゲン室等)であること。

② 次のいずれかに該当する防火上の措置が講じられた部分であること。
a 準耐火構造の壁及び床で区画され、かつ、開口部に防火戸(随時開くことができる自動閉鎖装置付きのもの又は随時閉鎖することができ、かつ、煙感知器の作動と連動して閉鎖するものに限る。)を設けた部分
b 不燃材料で造られた壁、柱、床及び天井(天井のない場合は、屋根)で区画され、かつ、開口部に不燃材料で造られた戸(随時開くことができる自動閉鎖装置付きのものに限る。)を設けた部分で、当該部分に隣接する部分が、直接外気に開放されている廊下等を除き、全てスプリンクラー設備の有効範囲内に存するもの

③ 床面積が1,000㎡以上の地階若しくは無窓階又は床面積が1,500㎡以上の4階以上10階以下の階に存する部分でないこと。

(5) 消防機関へ通報する火災報知設備の設置基準及び技術基準の見直し(第25条関係)
① (6)項イ(1)及び(2)に掲げる防火対象物並びに(16)項イ、(16の2)項及び(16の3)項に掲げる防火対象物((6)項イ(1)又は(2)に掲げる防火対象物の用途に供される部分に限る。)には、消防機関が存する建築物内にあるものを除き、消防機関からの距離が500m以内の場所にあるものについても消防機関へ通報する火災報知設備を設置しなければならないこととされました。

② 消防機関へ通報する火災報知設備の電源を蓄電池又は交流低圧屋内幹線から他の配線を分岐させずにとることを要しない防火対象物に、(6)項イ(1)から(3)までに掲げる防火対象物で延べ面積が500㎡未満のものが追加されました。

③ 消防機関へ通報する火災報知設備を自動火災報知設備の感知器の作動と連動して起動させることを要する防火対象物に、(6)項イ(1)及び(2)に掲げる防火対象物並びに(16)項イ、(16の2)項及び(16の3)項に掲げる防火対象物が追加されました。

4 火災通報装置の告示改正概要
 特定火災通報装置を設置することができる防火対象物に、(6)項イ(1)から(3)までに掲げる防火対象物で延べ面積が500㎡未満のものが追加されました。
また、火災通報装置を自動火災報知設備と連動させる場合の構造、性能等の基準が定められました。

5 パッケージ型自動消火設備の告示改正概要
 スプリンクラー設備の代わりに設置することができるパッケージ型自動消火設備が、従来からあるⅠ型と小規模施設向けのⅡ型に分類されました。
Ⅰ型は延べ面積10,000㎡以下、Ⅱ型は延べ面積275㎡未満の防火対象物が対象で、いずれも(6)項イの防火対象物にも設置することができるとされました(図3参照)。
なお、実際の設置にあたっては、延べ面積だけでなく、内装仕上げ等の条件がある場合がありますので注意が必要です。
図3 スプリンクラー設備の設置義務が生じた病院・診療所・助産所に設置可能な消火設備の判定フロー
6 既存防火対象物の経過措置
 これらの改正は、施行日時点で既存又は工事中の防火対象物にも適用されます。
 消防用設備ごとに次の経過措置が設けられています。
7 おわりに
 病院・有床診療所等の開設又は改修の相談を受けた場合は、改正内容を踏まえ、必要な防火安全対策が講じられるようお願いします。なお、設置する消防用設備等の種類によっては、内装に制限がある場合もありますので、詳しくはお近くの消防署でご確認ください。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政