私の休日 ⑤
コケの世界──テラリウム
井桁 正美(東京都建築士事務所協会渋谷支部、オルカ一級建築士事務所代表)
コケに魅せられて
2010年ごろより盆栽とコケ(苔)に魅了されました。当時仕事で通っていた埼玉県の某マンションの近くにあるホームセンターに、仕事の終わりに立ち寄っては少しずつ色々な木々の苗木やコケ、鉢を買い集め、参考書を見ながら自分なりに好みの鉢に苗木を植え、コケをあしらって楽しんでいました。
最初のうちは苗木もコケも青々として綺麗でしたが、日が経つにつれてコケだけが黒く変色して枯れてしまいました。原因は直射日光が当たることによるムレが原因だったようです。
当然、木には日光が必要ですが、私が育てているような小品盆栽ではコケに適当な木陰をつくるのは難しいので、コケだけを育てることにしました。試行錯誤の末、100円ショップで購入した半透明の容器に入れて日影に置くことにより、長期間、青々とした美しさが持続することが分かりました。そして一昨年、LED水耕栽培器「灯菜」のメーカーであるオリンピア照明株式会社の仕事をさせていただいて、LEDでも植物が育つことを知り、同時期に「テラリウム」という室内でガラス容器の中でコケを育てる方法を知り、今ではテラリウムづくりに没頭しています。
コケの生態
コケは胞子で増えるためキノコに似ていますが、緑色をしていることから葉緑体を持っていて、光合成を行っており、キノコとは違います。また茎や根のようなもので地面や木の幹、岩などに生えていますが、これは仮根といい茎葉を支え固定しているだけのもので、地面から水分や養分を吸い上げる機能はないといわれています。コケの茎葉は養水分を吸収しやすい構造になっているそうで、朝露や雨、空気中の水分と、その中に含まれる微量の養分を吸収しているそうです。またコケはある程度乾燥にも強いそうですが、乾燥すると色が悪くなります。空中湿度が高い方が青々として綺麗に見えます。言い替えるとコケには土が必要ないため、生育に必要な条件が揃えば岩の上や木の幹、コンクリートの上にまで生息が可能だそうです。
作例1。使用した苔はホソバオキナゴケ、スナゴケ、スギゴケ、コウヤノマンネンゴケ。
作例2。使用した苔はホソバオキナゴケ、ヒノキゴケ、イワヒバ(イワヒバ科)。
作例3。使用した苔はホソバオキナゴケ、コウヤノマンネンゴケ。
テラリウムのつくり方
お好みのガラス容器を用意します。乾燥を防ぐため、蓋付きのものがいいでしょう。ただし、パッキンなどのある密閉容器の場合はパッキンを取ることをお薦めします。次に容器に土を入れます。これは保湿と茎の固定のためです。最近では通販でコケ用の土も購入できますが、以前私は多肉植物用の土を使用したことがあります。好みで石等を配するのもいいでしょう。写真❶
次にコケを植えます。テラリウムに適したコケは私の経験上、ホソバオキナゴケ(山苔)、ヒノキゴケ(イタチノシッポ)、コウヤノマンネンゴケ(コウヤノマンネングサ)、コツボゴケ、ハイゴケなどがありますが、今回はホソバオキナゴケ、ヒノキゴケ、コウヤノマンネンゴケを使用します(その他に、コケではないですが、シダやイワヒバも相性がいいです)。まずは最初に前方に背の低いホソバオキナゴケを植えます。写真❷
次に後方に背の高いヒノキゴケ、コウヤノマンネンゴケを植えます。写真❸
その後土全体が湿るように霧吹きなどでたっぷりと水をあげます。その際、コケ自体が水に浸らないように気を付けてください。これで完成です。写真❹
あとは2〜3週間に一度霧吹き等で水をあげ、2〜3カ月に一度、水性の肥料を千倍に薄めた水を散布するだけで、うまく育てると2年ほど持つそうです。私のテラリウムの中でいちばん長いのは来月で1年経ちますが、まだ青々として元気です。
置いてあるのは直射日光の当たらない室内です。先述した「灯菜」で育てているものもありますが、ほとんどは室内灯のLED照明の下で元気に育っています。
井桁 正美(いげた・まさみ)
建築家、オルカ一級建築士事務所代表、東京都建築士事務所協会渋谷支部
1960年東京都生まれ/1983年 東京工芸大学工学部建築学科卒業後、株式会社エム建築事務所/1989年 株式会社エイムクリエイツ/1996年 イゲタ建築・デザイン事務所開設/2012年 オルカ一級建築士事務所に事務所名を変更
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