日刊建設工業新聞社連携企画座談会 その1
支部活動を通じて協会の現在と未来を考える
千鳥 義典(東京都建築士事務所協会会長)
加藤 義道(中央支部長)、山本 誠(渋谷支部長)、小野 博文(杉並支部長)
文責:牧野 洋久(日刊建設工業新聞社)
座談会風景。令和6(2024)年7月26日、協会本部にて。
 支部やブロックによる多様な活動・社会的役割、魅力等を発信・周知する狙いから、日刊建設工業新聞社と連携し、支部長と千鳥義典会長による座談会を企画した。テーマは「支部活動を通じて東京都建築士事務所協会の現在と未来を考える」。2回に分けてお届けする。第1回は令和6(2024)年7月26日に本部で実施し、加藤義道中央支部長(第1ブロック)、山本誠渋谷支部長(第3ブロック)、小野博文杉並支部長(第4ブロック)の3人が登壇した。
安全・安心へ行政と連携
 地域の安全・安心につながる耐震化への取り組みは各支部で共通する。加藤支部長は中央区や建設業団体らと設立した耐震促進協議会で、旧耐震建築物を訪問して区民に耐震化の重要性を啓発している活動に触れ、「年間約1,000戸回っている。あと3年ですべて回りきる予定だ」と説明。山本支部長は「建築ナビゲーター」と名付けたリーフレットを作成・配布し、区民らから建築・不動産に関する相談を幅広く受け付けている活動を紹介した。渋谷区に協力して月に1度、耐震相談会を実施しており、「能登半島地震以降、耐震化への関心が高まっており、1人体制だったのを2人に増強した」と語った。
 小野支部長は、支部と別組織として立ち上げている「杉並区建築設計事務所協会」で、杉並区から区有建築物等定期点検業務などを受託していることを紹介した。杉並支部と日本建築家協会(JIA)関東甲信越支部杉並地域会、東京建築士会杉並支部による「杉並建築会」が、道路事業に対して地域から意見を聞く取り組みでファシリテーターを務めた事例に触れ、「区とは3会で意見交換することが多い」と話した。関係団体と連携することで、行政からより頼られる存在になっている状況がうかがえた。
交流の輪を広げる
 会員や役員の増強も重要なテーマだ。中央支部は未加入の建築士事務所を回り、加入を呼び掛けている。加藤支部長は「協会加入で保険が有利になることもあり、会員は増えている」と語った。渋谷支部は協力会員の増加を踏まえ、新たな委員会の設置へ準備を始めた。山本支部長は「展示会や勉強会で交流したい」と述べた。
 一方で、「新会員との交流がなかなかできていない」(加藤支部長)、「役員が高齢化しており若返りしたい」(山本支部長)など課題もある。杉並支部は、入会5年程度の会員も副支部長に就任しており、新陳代謝を図っている。「会議は30分から1時間と決めている。オンラインも併用することで高い参加率を保てている」(小野支部長)。第1ブロックは7月18日、ブロック単位で初となる見学会を国立競技場で開き、約100人が参加し盛況だった。加藤支部長は「普段は顔を出さない会員にも来てもらえた。ブロックで良い交流を生み出すことも大事」と振り返った。
つながることで強みを
 労働人口が減少していく中で担い手を確保するための工夫も求められる。会員事務所個別の取り組みとなるが、「子育てや介護をする人に在宅勤務を認めている。職員の定着率に影響するため、働きやすい環境づくりを心がけている」(加藤支部長)、「子育てや介護で働けていない建築士が、短い時間でも職住近接で活躍してもらえるとよい」(小野支部長)などの声が上がった。
 山本支部長はBIMとリモートへの対応が、フレキシブルに働ける環境の構築の鍵になると指摘した。本部が準備を進める協力事務所のマッチングサービス「アーキ・パートナー」にも言及し、互いにつながりながら業務を進めていくことへの期待感を示した。小野支部長は「得意分野を持つ会員が集まれば複雑な仕事もカバーできる」と述べ、中小規模の会員が連携して幅広い業務に取り組むことの有効性を指摘した。一方で、「BIMの習熟がなかなか難しい」(山本支部長)との課題感も示された。
 事業承継も話題に上った。加藤支部長は「建築士事務所が倒産し、図面がなくなって分からなくなるようでは社会に迷惑を掛ける。業務を継続していくことは業界としての責任だ」との見解を述べた。技術者や手掛けた業務内容がしっかりと引き継がれていくことで、建物の適切な管理が可能となる。山本支部長は協会で対応を考えていくことの必要性に触れ、「人となりが分かる相手に引き継ぐことがベストだ」と述べた。
守備範囲広げる未来へ
 建築士事務所の在り方に対しては、これから変化していくとの見方で一致した。加藤支部長は「メンテナンスや運営にまで積極的に出ていき、既存ストックの活用に率先して貢献していくべきだ」と強調。山本支部長も「これまでは設計・監理に集中していたが、建物の最初から最後までになるだろう」との見通しを示した。小野支部長は「10年後も今のままとは思えない」と述べ、古い空き家をコミュニティに生かす試みを行っている支部会員の事例を紹介し、「未来にどうつながるか分からないが、守備範囲を大きくしていきたい」と話した。
 千鳥会長は「東事協は支部活動がベースで、その集合として本部がある。大手から中小まで幅広い会員がいることで、中小規模の建物を含めて対応できている」と述べ、「アーキ・パートナーで互いがつながりあうことで、より迅速に効率的に仕事ができるようにしたい。都市を人間に例えると、ひとつひとつの細胞が役割を果たしてこそ全体が機能する。そうした重層的な役割を今後も大事にしたい」と締めくくった。
千鳥 義典(ちどり・よしのり)
東京都建築士事務所協会会長・新宿支部、日本設計株式会社
1955年 東京都生まれ/1978年 横浜国立大学工学部建築学科卒業/1980年 同大学大学院修了/1980年 日本設計入社/2013年 代表取締役社長/2020年 取締役会長/2023年 最高顧問/新宿支部
加藤 義道(かとう・よしみち)
東京都建築士事務所協会中央支部支部長、株式会社カトウ建築事務所代表取締役社長
1951年 栃木県生まれ/1970年 東京都立小石川工業高校建築科卒業後、建築設計事務所等数社の勤務を経て、1987年 (有)カトウ建築事務所設立/1989年 (株)カトウ建築事務所に改組
山本 誠 (やまもと・まこと)
東京都建築士事務所協会渋谷支部支部長、株式会社アイ・エー・シー
1951年 愛知県生まれ/1970年 県立愛知工業高等学校卒業後、地元建設会社入社/1970年 茜設計入社/1986年 独立
小野 博文(おの・ひろふみ)
東京都建築士事務所協会杉並支部支部長、有限会社ヒロ空間企画代表取締役
1966年 香川県生まれ/1984年 東京都立豊多摩高校卒業/2000年 有限会社ヒロ空間企画設立
牧野 洋久(まきの・ひろひさ)
日刊建設工業新聞社
1975年 北海道生まれ/1997年 東京都立大学土木工学科卒業/建設会社などを経て、2001年 日刊建設工業新聞社入社/2021年 編集部部長