新国立競技場見学会
第1ブロック|令和6(2024)年7月18日@国立競技場
鈴木 文雄(東京都建築士事務所協会理事・研修委員会委員長・会誌専門委員会委員長・墨田支部、有限会社鈴木設計一級建築士事務所)
1階コンコース正面から競技場全体を望むと、大屋根から覗く楕円形の青空とフィールドを照らす楕円形状の日差しが、SF映画でよく見る宇宙船の襲来場面と重なり圧倒される。そのまま観客席の階段を下り地下2階の階層となるトラックフィールドに降り360度の観客席と大屋根を見上げる。令和3(2021)年に開催された東京オリンピックにおいて、無観客であることを感じさせない配慮として話題となった5色のアースカラーをモザイク状に組み合わせた観客席は、なるほど、来場者で賑わっているように錯覚させる優れた手法といえる。フィールド内を移動した後、選手の入退場で目にするゲートをくぐり研修室に向かう。
■第1部:設計趣旨説明
主催挨拶
第1ブロック運営幹事である新宿支部の高嶋寛支部長の挨拶で開会され、続いて、第1ブロック各支部から千代田支部の玉腰徹副支部長、中央支部の加藤義道支部長、港支部の吉田潤支部長が挨拶した後に、大成建設株式会社様にマイクを渡し、第1部の国立競技場設計趣旨説明が始まった。
主催挨拶
意匠説明:大成建設株式会社 設計第7部部長 川野久雄様(要約)
設計・監理は大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体で、施工は大成建設株式会社。コンセプトは「杜のスタジアム」で神宮の森と共存する優しいスタジアムを造ることが大きなテーマ。設計期間は約1年間で意匠、構造、設備設計者約120名で取り組んだ。施工期間は約3年であった。観客席数は6万席(オリンピック時)で、サッカー専用に拡張すれば8万席まで増やせるように計画されている。高さを50m以下に抑え明治神宮外苑の景観との調和を図る。外周の軒庇は47都道府県から調達された105×30mmの防蟻防腐処理されたスギ材(沖縄のみ琉球松)で構成される。
「風の大庇」と「風のテラス」からスタジアム内に風を導き、フィールドの熱による上昇気流で熱と湿気を排出する気流循環により観戦環境を向上させている。また、「風の大庇」にはルーバーがあり、間隔や長さを変え風の流入量を調整している。風がないときは観客席下に設置された185台の気流創出ファンで対応する。
車椅子席は1階だけで371席、上層スタンドを含めるとトータルでは約500席ある(パラリンピック時には747席に増設できる計画)。誘導ブロックを高さ2.5mmの低いものとし走行に配慮しているほか、36人乗りの大型エレベータを配置し、円滑な避難ができる計画となっている。
旧国立競技場の1964年東京オリンピックの聖火台や、飾られていたさまざまなアートを再配置し、象徴的な形のスタジアムをつくるだけでなく、人びとの記憶を継承することで聖地となっていくものと考えた。
構造説明:大成建設株式会社 設計企画部(構造) 中川路勇様 (要約)
地下2階から地上1階の3層に312台のオイルダンパーを配置し、観客席や大屋根の地震力を軽減する制震構造を採用している。大根屋は鉄骨と木材のハイブリッド構造で剛性を高め変形を抑えている。工期が短いため基礎、柱、床等、使えるところはすべてプレキャストとした。屋根を4分割にユニット化し空中で接合するスカイジョイントで施工性を高めた。大屋根の変形制御のために3.8mの“むくり”を取ったことで、その部分が結果的に屋根デザインのアクセントとなっている。
■第2部:国立競技場見学
50人ずつの2班に分かれスタジアム内の見学が始まった。われわれ第2班はまず、地下2階研修室からトラックフィールドに出て観客席のアースカラー、大屋根のトラス材やむくりによる変形剛性の説明を受けた。入退場ゲートをくぐりフラッシュインタビューゾーン(ミックスゾーン)で東京2020大会の聖火リレートーチや元サッカー日本代表監督であるアルベルト・ザッケローニ氏の蝋人形などを見ながらロッカールームに入り、さまざまな選手のサインが書かれた壁に囲まれた廊下を通り、エレベータで1階VIPエントランスに移動する。
折り紙天井や吉野杉が張られた柱を見ながらエスカレータで2階VIPロビーに上がり、VIPラウンジの見学に入る。室内の高さは7m程度あるだろうか、最大約1,500名を収容できるスタジアム内最大のラウンジとのこと。スポンサーが貸し切り、レセプションや会食などのおもてなしなどをするエリアである。全般に木の質感で統一され、和紙や障子で「日本らしさ」が表現された空間となっている。
次は、エレベータで3階に向かい貴賓室に入室した。VVIPが懇談や休憩の場所として利用する部屋という高級感漂う空間である。幅約10m、高さ約4mの壁一面の和紙がバックライトで優しく輝いている。
テラスに出ると競技場全体が眺めることができる。その後、3階北サイドスタンドから「風のテラス」と呼ばれる外周通路を通り、特大電光掲示板がかかる4階北サイドスタンドで競技場全体を眺めながらしばし小休止。その後、外周の外階段を上り「風の大庇」にて配置計画などの説明を聞き、すべての見学を終えた。とても見ごたえのあるあっという間の2時間であった。
思えば、観覧席にいた時間は長かったが暑さを感じることがなかったのは気流循環システムが機能しているからであろう。さまざまな技術が集積したまさに世界に誇れるスタジアムといえる。
今回の見学会開催にご尽力いただいた新宿支部のみなさんと、ご協力いただいた大成建設株式会社様にあらためて御礼申し上げたい。まだお出でいただいていない方には有料のスタジアムツアーも組まれているので是非ご見学いただくことをお勧めしたい。
鈴木 文雄(すずき・ふみお)
東京都建築士事務所協会理事・研修委員会委員長・会誌専門委員会委員長・墨田支部、有限会社鈴木設計一級建築士事務所
1984年 東海大学建築学科入学/1987年 同校中退、東京デザイナー学院建築デザイン科入学/1989年 同校卒業/有限会社鈴木設計一級建築士事務所入社/現在、同代表取締役
1984年 東海大学建築学科入学/1987年 同校中退、東京デザイナー学院建築デザイン科入学/1989年 同校卒業/有限会社鈴木設計一級建築士事務所入社/現在、同代表取締役
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