建築と私①
建築との出会い
田中 道子(俳優、モデル、オスカープロモーション所属)
FF8がやってきた
 エッセイ1回目となる今回は、私がはじめて建築というものに触れたところから振り返ろうと思います。
 ずいぶん昔ですが遡ること約20年前。当時世間的にも人気が加熱していたゲーム、ファイナルファンタジー8(以下FF8)がやってきたのです。シリーズ内のバグが新聞に載り、テレビのニュースで取り扱われるほどの社会現象を起こしたと言われていますが、例に漏れず私の家族をも完全に魅了してしまいました。
 それまでゲームで当たり前だったドット絵やポリゴンから、一段階二段階どころか駆け上がるような進化を遂げ、まるで実写映画のようなリアルな映像に家族の反応もいつもとは違いました。
 いつもはゲーム反対派でガミガミ口うるさい母も、釣られた魚のようにポカンと口を開けて私のプレイに見入っていましたし、仕事から帰った父も、ゲームに見とれてテレビのチャンネル権を主張しなくなりました。それが当時、なぜか誇らしかったのを覚えています。
 それまでの「所詮ゲームなんて…」という否定的な意見を一蹴してくれたFF8に、私がのめり込んでいくのもそう時間はかかりませんでした。
超未来都市「エスタ」に思いを馳せる
 まだ小学生でストーリーもほどほどにしか理解できませんでしたが、映像美への好奇心のみでプレイしていました。
 旅を進めるうちにエスタという街に向かい、そして何もない殺風景な谷に辿り着きました。辺りに何も見えないけど、地図上ではたしかに街に着いていました。意味がわからないですよね。
 しかし、いざ街に入る資格が整うと、先ほどまで何もなかったただの空間に、CDROMを読み込む時のようなジジジッ…という電子音が響き、空や大地が歪み出し、そしてそこに超巨大なドーム型の都市が突如として現れたのです。
 エスタは、大量の六角形のディスプレイパネルで街をドーム状に覆い、空や大地の映像に切り替えて外から街の姿を意図的に隠している超未来都市だったのです。
 見えない街エスタにたどり着いた当時10歳の私の衝撃は計り知れず、脳天の髪の毛まで鳥肌って立つんだなとその時初めて知りました。
 超未来都市での移動は、もちろん浮遊型の車。というかもはや椅子のようなもの。
 そして街のつくりが面白く、下層、中層、高層に街が明確に分かれていました。
下層である地上には低層の住宅のようなものがひしめき合い、道路はほぼありません。そして高層と低層の間に人が移動する空間がありました。例えると100階建ての高層ビルの50階あたりをつなぐ道ができていて、そこを徒歩や、浮遊型の車で移動できるのです。下層と高層の上下の移動も浮遊型の車ですばやくできて、現実世界でもいずれこうなるのではと思いを馳せたものです。
 思い返すと、そこが私と建築の初めての出会いだったと思います。
建築に魅了されて
 その後の進路は空間造形学科という分野がある大学に通い、都市デザインや建築を専攻して学んでいきました。大学入りたての頃は、エスタに思いっきり影響された法令ガン無視の図面と模型をつくって先生に怒られたものです。周りは、突端なデザインをする学生なんか誰ひとりいなくて、恥ずかしい想いをよくしました。
 学ぶうちに建築の魅力、著名な建築家、先進的な建築物など好きなものはたくさんできました。が、いつもなにか物足りないと10歳の頃の私が言うのです。知れば知るほど、学んできたからこそ、現実世界でのエスタは存在し得ないことを身を持ってもって体感し、心にポッカリと穴が空いてしまったままです。
 頭の中では理想の建物があるのに、現実世界ではあっちを立てればこちらが立たず。過去にも、悔しい思いをして数世紀後に夢を託してきた建築家が大勢いたんじゃないかと思います。憶測ですけどね。
 ポッカリと穴の空いた物足りなさは、ずっと胸にしまっておきます。格好つけた言い方をすると、きっとそれが建築に魅了された者の宿命なんだと思います。
田中 道子(たなか・みちこ)
俳優、モデル、オスカープロモーション所属、二級建築士
1989年 静岡県生まれ/静岡文化芸術大学卒業/ミス・ワールド2013日本代表、世界大会ベスト30/テレビドラマ、情報・バラエティ等に出演、最近では2021年「君と世界が終わる日に」ハル役(NTV)/2019年 第104回二科展 絵画部 初出展で初入選
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