改正建築物省エネ法の概要
内田 孝(日本ERI省エネ推進部)
はじめに
 建築物省エネ法は平成27(2015)年7月に公布され、平成28(2016)年4月から施行されていますが、最初の改正が令和元(2019)年5月に公布されました。この改正の中で、重要かつ建築に与える影響が大きいものが省エネ適合性判定(以下「省エネ適判」)の対象拡大と説明義務制度といえます(2,000㎡以上の非住宅の省エネ適判は平成29/2017年4月1日より施行)。
省エネ適判の対象拡大について
図1 省エネ適判対象拡大時の経過措置*1
図2 確認申請と省エネ適判の流れ*2
省エネ適判の概要
 省エネ適判の定義ですが、「省エネ基準適合の義務化」及び「第三者による判定の義務化」ということができます。この省エネ適判の対象が、令和3(2021)年4月1日より、300㎡以上2,000㎡未満の非住宅に拡大となりました。このような中規模建築を業務の中心としている設計事務所や工務店で、「省エネ適判」を初めて経験する方々も多いと思いますので概要から説明します。
 なお、対象拡大時の経過措置ですが、300㎡以上2,000㎡未満の建物でも、3月31日までに確認申請もしくは省エネの届出を行っていれば、省エネ適判の対象とはなりません(図1)。
 建築物省エネ法の「基準適合義務」は「建築基準関係規定」ですので、基準に適合していないと確認済証や検査済証が交付されず、建物の着工も竣工もできません。確認申請と省エネ適判の関係や流れについては図2を参照して下さい。
表1 建築物省エネ法における省エネ基準一覧*3
省エネ基準──BEIの計算方法
 建築物省エネ法で定められた省エネ基準ですが、省エネ適判の場合、建築物の一次エネルギー消費量を基準以下にすることが求められ、下式で定義されたBEIを1.0※以下とする必要があります。(BEI: Building Energy Index)
BEI =
設計一次エネルギー消費量(家電・OA機器等分を除く)
基準一次エネルギー消費量(家電・OA機器等分を除く)
 ※2016年4月1日に現存する建物への増改築の場合、BEIは1.1以下
 省エネ基準の一覧は表1をご覧ください(建築物省エネ法では住宅についても省エネ基準が決められているので住宅についても記載)。
 BEIの計算方法ですが、建築研究所のWEBプログラム(https://www.kenken.go.jp/becc/)である「モデル建物法」と「標準入力法」、IBECが公開している「BEST省エネ基準対応ツール」(http://www.ibec.or.jp/best/eco/)の3つの方法がありますが、入力点数が少なく、工事監理等手間も少ない「モデル建物法」が主流となっています。なお、建築研究所のWEBプログラムは誰でも無償で利用できます。
省エネ適判の変更申請
 建築工事では、かなりの確率で着工後に変更工事が発生します。変更の内容が省エネ基準に関係する場合、完了検査の前に省エネ適判の変更申請が必要です。変更申請には「計画変更」と「軽微変更」のふたつがあります。さらに、軽微変更にはA、B、Cの3つのルートがあります。4つの変更申請のどれに該当するかは変更の内容で決まります。軽微変更のルートCと計画変更の場合、登録省エネ判定機関等の審査が必要となりますので、スケジュールに余裕をもって対応することが必要です。
 完了検査では直近の判定を受けた申請図書通りにできているか確認します。省エネ適判では照明器具やエアコン等の設備機器の仕様や台数も検査の対象となりますので、照明器具1台増減しても完了検査に合格しないケースもあります。指摘の内容によっては再度の変更申請が必要となり、竣工に間に合わないケースも想定されますので注意が必要です。
 省エネ適判で重要と思われるポイントを下記ふたつにまとめましたのでご一読ください。
 ① 申請の際は申請書類間の整合をとってください。確認申請と省エネ適判申請書の記載内容の不整合や、省エネ適判の申請図書と計算書の間での入力データの不整合が審査段階で多く指摘されています。
 ② 完了検査で申請図書通りできているか確認しますが、変更申請の際、変更内容を漏れなく盛り込むことと、変更申請提出後に新たな変更工事を行わないことが重要です。
図3 説明義務のフロー*4
説明義務制度
説明義務制度は令和3(2021)年4月1日以降に建築士が委託を受けた300㎡未満の住宅及び非住宅が対象となります。図3のフローに示すように、説明義務は以下に述べる4段階で行います。
STEP1 省エネに関する意識を向上させるために、建築主に対し、省エネに関係した情報を提供します。
STEP2 省エネの評価・説明の要否についてあらかじめ建築主に確認します。建築主が評価・説明は不要とした場合は、その旨を記載した書類を建築士に提出する必要があります。この書面は建築士法に基づく保存図書として建築士事務所に15年間保存する必要があります。
STEP3 省エネ計算を実施し、省エネ基準に適合しているかどうか評価します。300㎡未満についてはモデル住宅法、小規模版モデル建物法といった簡易な計算方法が利用できます。
STEP4 省エネ基準への適否、省エネ基準に適合していない場合の省エネ性能を確保するための措置について建築主へ説明します。説明書面は建築士法に基づく保存図書となります。
 なお、建築物省エネ法の改正に関しては国土交通省のホームページで詳細な資料が紹介されています。
 (https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_tk4_000103.html
おわりに
 日本が昨秋「2050年にカーボンニュートラル達成」に舵を切りましたが、建築物に対する省エネ規制も間違いなく厳しくなっていきます。住宅の省エネ基準義務化という話も現実化しつつあり、今後の建築物の省エネ規制について注視していく必要があります。
[出典]
*1 日本ERI「省エネ適合性判定〈手続き・Q&A〉Ver.2.1」
*2 日本ERI「省エネ適合性判定〈手続き・Q&A〉Ver.2.1」の掲載図に加筆
*3 国交省資料を元に日本ERIにて作成
*4 国交省資料を元に日本ERIにて作成
内田 孝(うちだ・たかし)
日本ERI株式会社省エネ推進部副部長
1955年生まれ/1980年 東京大学大学院建築学専門課程修士課程修了/1980~2017年 株式会社竹中工務店に勤務(主たる業務は設備設計)/2017~21年5月 日本ERI株式会社
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:省エネ